今日は樹里ちゃんがお休みの店内で、安藤さんと航太くんが賑わう店内で忙しそうに働いている。

私はコーヒー飲みながら、さっき寄ってきた本屋で買った小説を読んでいた。

すると隣からふと声をかけられた。

「すいません」

え?と顔を上げて相手を見ると、スーツを着た男性がこちらを見ている。

私・・だよね。

「はい」

返事をすると、その人が笑顔を見せた。

「よくこちらの店にいらしてますよね?」

「・・あ、はい。そうですね」

急な話に戸惑いを隠せない。

よく私の姿を見るということは、この人も常連さんかな?

そう思いながら相手の顔を見たけど、私にはよく分からない。

ぎこちない笑顔を見せる私に、その男性はコーヒーを飲みながら話しかけ続けた。

「ここのコーヒー美味しいですよね」

「そうですね」

「コーヒーが飲みたい時はここへ通っているんですよ。来た時に結構お見かけするので、つい声をかけてしまいました。すいません」

「あ・・そうなんですね。私の方こそ気付かずにすいません」

同じ常連さんなのに、相手はこっちに気付いていて私は分からないなんて申し訳ない。

頭を下げてお詫びすると、「いえいえ」と両手を振って慌ててみせた。

「僕はいつもカウンター席に座っていなかったので、分からなくても無理ないです。テーブルに持ち帰りの仕事広げて、コーヒーを飲みながらやっていたりしているものですから」

「そうだったんですね」

「あなたも仕事帰りに寄られているのですか?」

「はい、会社が近いので帰り道に寄らせてもらっているんです」

安藤さんに会いに通っているとは言えないし。

まあ嘘はついていない。

微かな動揺をごまかすようにコーヒーを一口飲んだ。