安藤さんの部屋にあがり、リビングのソファーに座りしばらくボーッとしていた。

テレビをつける気にもなれず、スマートフォンを手に取ることもなく小さくうずくまってただ時を過ごした。

それからどれ位の時間が経ったのか、階段を駆け上がってくる音が聞こえてきて我に返った。

「茉優さん?」

少し焦りを含んだ声で私の名を呼んだ安藤さん。

私はすぐに返事をして、ダイニングキッチンの方に顔を向けた。

「はい」

「待たせてしまってすいませんでした。茉優さん、大丈夫ですか?」

そう言いながら早足でソファーまで来ると、私の隣に腰を下ろして心配そうに顔を覗き込んできた。

「はい、大丈夫ですよ。心配かけてごめんなさい」

答えた私をゆっくり引き寄せて、私の心を労わるように優しく抱きしめてくれた。

「茉優さんがここにいてくれてよかった」

私も甘えるように彼に身を寄せて、何も考えずにその温もりを感じた。

しばらくして安藤さんは、私を抱きしめたまま遠慮がちに聞いてきた。

「茉優さん、先程のことを聞いてもいいですか?嫌でなかったら教えて下さい」

「・・・」

「貴女を悲しませたり、悩ませたりしたくありません。そういう事があるのなら、僕が守っていきたい。その原因が僕にあるなら余計にそう思います。先程の女性はうちの店によく来て頂いている方です。以前から気持ちを伝えて頂いていたのですが、断り方が足りなかったのかもしれません。茉優さんに嫌な思いをさせてすいませんでした」

そう言って私の背中から腕を外して少し身を離し、うつむく私にも見えるように頭を下げて謝罪した。

安藤さんが悪いわけじゃない、それは分かっている。

それなのに顔を上げることができなかった。

「僕は茉優さんに嫌われてしまうことが何よりも怖いです。この腕の中から出したくない位に大切すぎて、ずっとこうしていたいといつも思っています」

そう言うとまた私を腕の中に包み込んで、ピッタリと密着してきた。

安藤さんはいつでも私の心に寄り添ってくれる。

気持ちも真っ直ぐに伝えてくれて、私を不安にさせたりはしない。

今もあの女性から好意を寄せられている事を話してくれた。

隠したりしないで、謝罪までしてくれた。

こんなに優しい人なんだ、安藤さんは。

だから私もちゃんと自分の気持ちを素直に伝えたいって思えるようになった。