「あの！すいません！」

「・・・はい？」

プレシャスを出てすぐに後ろから声が聞こえたので足を止めて振り向くと、知らない女性がそこにいる。

ん？誰？とその人の顔を見ながら一応返事をしてみせたけど、何故か険のある目つきで見られていることに驚きを感じる。

２０代前半位の可愛らしい見た目のその人は、眉間にしわを寄せながら私に詰め寄ってきた。

「あの！あなた安藤さんと付き合っているんですか？」

「・・・」

「どうなんですか？」

答えない私に苛立ちを見せるこの人は、間違いなく安藤さんのお店のお客さんだろう。

私がお店を出るのを待っていたかのようなタイミングに現れて問い詰めてくるなんて。

怖い・・・。

「それは・・まぁ、はい」

突然知らない人に詰め寄られて、関わりたくないけれど嘘をつくよりはいい。

つまりながらも肯定しておいた。

だって嘘ついて付き合っていないと答えても、半ば分かって聞いてきているのだから信じるわけないし。

第一プレシャスのお客さんとして来ているなら、安藤さんのオープンな私への態度を目撃しているうえで、こうして確認しに来たのだろうと思う。

急なことに戸惑う私に敵意を見せた彼女は私にハッキリと言った。

「私、安藤さんのこと好きなんです。大好きなんです」

その言葉に息を飲んだ。

そんな私に更にたたみかけるように聞いてきた。

「私、ずっと通って安藤さんのこと見続けていたのに。他にも同じような人が沢山いるのに、どうしてあなたが彼女になれるの？」

「はあ・・」

「私だってずっと通っているのに、どうしてあなたと・・」

泣きそうな顔をされて、私はどうしたらいいのか分からなくなってしまう。

何て言葉をかけていいのかも分からずじっと彼女を見ていると、泣きそうだったその顔はキッと私を睨み、「ずるい」と低い声で悪意を向けてきた。

その言葉で一歩身を引いてしまった。

お互い言葉をなくした所で、「茉優さん、どうしました？」と安藤さんの声が割り込んだ。