コーヒーを飲み終えて、今日の気分で夕ご飯はナポリタンを選んだ。

シンプルな味だけど、私は大好き。

時々樹里ちゃんと雑談しながらゆっくり食べた。

そして食べ終わった頃、樹里ちゃんは奥の席からオーダーの声がかかり、行ったところで安藤さんがお皿を下げに来た。

「ごちそう様でした」

そう伝えて軽く頭を下げた時、安藤さんがテーブルの上にそっと鍵を一つ置いた。

「・・えっ」

鍵??と戸惑う私の耳元でそっとささやいた。

「 この後うちに寄って行きませんか?」

「・・・あの、これ・・」

私が『この鍵は?』って聞こうとしたところで、『シー』と人差し指を唇にあてて秘密とジェスチャーした。

「うちの鍵です。樹里ちゃんが見たら大騒ぎするから」

と苦笑しながら小さな声で言った。

「はっ、はい」

周りの席にはもうお客さんはいないけど、私もついつい小声になって動揺は隠せない。

だって安藤さんのおうちの鍵を渡されるなんて。

驚いてその鍵をジッと見てしまう。

「店を閉めたらすぐ帰るので、これで入っていて下さい」

その言葉に頬が熱くなる。

私が安藤さんの部屋で帰りを待つ。

想像してしまい、返事をするのを忘れてしまった。

すると私の顔を覗き込んだ安藤さん。

「部屋まで送りましょうか?」

「い、いえ!大丈夫です」

そんなわざわざ送ってもらうなんて。

安藤さんはお店の2階に住んでいる。

裏のドアから入って階段を上がれば、そこに2DKの居住スペースがある。

安藤さんは幼い頃までご両親とそこで暮らしていたけど、近所に家を建ててからは2階は使っていなかったらしい。

お店で働き始めてからここで一人暮らしを始めたって聞いた。

この後安藤さんの部屋で待っていてってことだよね?

お店を一度出て裏に回り、この鍵を使って入っていてってことだよね?

私そこまでしちゃっていいのかな。

「待っていて下さい」

私の心を見透かしたように、甘えた瞳をみせる。

私が逆らえないことをわかっているくせに。

「はい」

小さな声で答えると、「ありがとうございます」ってお礼まで行ってくれる。

そこへ「ブレンド2つお願いしまーす」と樹里ちゃんが戻って来たので、私は目の前の鍵を急いで握って隠した。