「美味しいです」

自然と頬がほころびながら安藤さんを見上げると、優しく微笑みを返してくれる。

ああ・・私幸せだな。

安藤さんが微笑んでくれるだけで、私はこんなにも安心できる。

付き合い始めて驚いたのは、安藤さんがお店でも気持ちを隠さなかったことだ。

人気のある安藤さんは、彼目当ての女性客が日々沢山来店する。

そんな中でも私だけを名前で呼ぶ。

もちろん樹里ちゃんのことは名前で呼んでいるけど、みんなバイトとして見ているからあたり前なことだけど、あとはどんなに常連さんでも苗字で呼んでいる。

だからこそ私のことを『茉優さん』と呼んでいるのを耳にした安藤さんファン達がざわついていると樹里ちゃんが教えてくれた。

それを聞いた私が焦りを見せると、樹里ちゃんは「ちゃんと見せつけておいた方がいいですよ!虫除けに」と言ったけど、私は見せつける気なんて更々ない。

好きな人を想う気持ちは私だって分かるし、向けられる視線だってかなり痛い。

それに安藤さんのお店経営にだって不利益になるなら、私は付き合っていることだって秘密にしてもいいし、お店に行くことだってひかえてもよかった。

でも安藤さんはそうじゃなかったらしい。

付き合い始めて会う日を増やす提案をしたのは安藤さんだし、お店にいてもふと見上げれば視線が合い微笑んでくれる。

そして私を『茉優さん』と呼んでいることに探りをいれている人達がいることや、自分のことも名前で呼んで欲しいと言った人達に安藤さんは笑顔でスルーしていることも樹里ちゃんが教えてくれた。

安藤さん・・・そんな特別扱いしても大丈夫なんですか?私はいろいろと心配です。

そんな私の心配も焦りも、安藤さんには伝わらないのか、『あの・・安藤さん』と言いたくても、嬉しそうな顔を見てしまうと言葉は詰まる。

後はもう流されるしかなかった。

でもそれは嫌ということではなく、気恥ずかしい気持ちがあったからで、何だかんだいって嬉しかったことも本音だ。