しょうがない……。
この松原雫が出迎えてやろうじゃないの。
そう思って、不自然じゃないように机に向かって立ち、鞄をあさる振りをする。
タンッ…タンッ…タンッ……
だんだんその音が近くなって、あたしはそっと目を閉じた。
それまで聞こえていた規則正しい音が聞こえなくなって、あたしはまた目を開ける。
…………来る。
そう思ったのと同時に、
ガチャ……
背後で部屋のドアが開く音が聞こえた。
何を恐れているのか、体が固まっていて動けない。
やつが近づいてきているのが分かる。
見えないけれど、どんな顔をしているのかも想像できる。
そして後ろから手を掴まれた時、あたしは反射的にその手を振り払っていた。
そのまま顔を見ずに、光輝から一歩距離を置く。
あたしの長い髪に光輝の手が触れてきて、直接体と接触していないのに何故かドキッとした。
それを合図に加速し始める心臓。
静かな部屋の中、先に口を開いたのは光輝からだった。
「……逃げんなよ」
「っ、」
目の前の光輝が強気にぐいぐい近づいてくるから、あたしも負けじと後ずさりする。
意味分かんない。
自分がこんなにドキドキしている理由が。
そもそも何にドキドキしているのだろう。
「ようやく意味が分かったか?」
「……」
何も答えようとしないあたしに、光輝がゆるく口角を上げる。
なんとなくヤバい気がしたけれど、何がヤバいのかは分からなかった。
……光輝に言われるまでは。
「……そのまま下がっていいのか?」
「……え?」

