その時の秋山君のことがすごく印象に残ってる。


『あなたは…松原雫さん、ですね?』



悲しい顔から一転して、にこっと笑ってあたしの顔を覗き込む彼。


本当は記憶のあった頃のあたしのことを知っているはずなのに、初めてあった人にするような対応を見て…すごく申し訳なくなった。


「はい……。

 あなたはあたしの……
 恋人か何かですか?」



我ながらかなり大胆な発言をしたと思う。


後になってから恥ずかしくなった。


だけど彼は一瞬顔を陰らせただけで、また笑顔を浮かべて言う。


「……いいえ。

 幼馴染みの秋山光輝です」



………ダメだ。


何もピンとこない。


「そう、ですか…。

 ごめんなさい……
 あたし、何も思い出せなくて」


「いいえ、仕方ないことです。

 気になさらないで下さい」