言われた場所に行くと『松原雫』という札がつけられた病室があって。
その前で深呼吸すると、俺は決意を胸に
ガチャ…
ゆっくりとドアを開けた。
「あ……」
思わず声を漏らしてしまったのは、ベッドから起き上がっていた雫が窓の外の景色を見ていたから。
そのために顔は見えなかったけれど、頭に巻かれた包帯が痛々しい。
病室の窓は開けられていて、すぐ近くではもう青葉を見せ始めている桜の木が花びらを散らせている。
あの日屋上で見た桜の花びらはこの木だったのかもしれない、と思った。
優しい風が時折、部屋に吹いてきて雫の髪を揺らす。
少しだけ汗ばんだ手をぎゅっと握って、俺はゆっくりと彼女の元へ近づいていく。
でも俺がいるのを分かっているはずなのに、こっちを向こうとしない彼女に違和感を感じる。
なんだ……この嫌な予感は。
雫が目を覚まして本来なら嬉しいはずなのに、何かがおかしい。

