「こう…」
「そいつが完治するまで
そっちには戻らないから。
じゃ」
一方的に電話を切る。
前の俺じゃあり得なかったな…。
そう思いながら空を見上げると、どこからか桜の花びらが風で運ばれてきていた。
それを見ただけなのに公園で嬉しそうに桜を観賞していた彼女を思い出す。
笑った顔。
怒った顔。
拗ねた顔に……照れた顔。
いつもツンツンしているくせに、ふとした時に無邪気に笑って。
強がっているくせに、本当は誰よりも傷ついていて脆い。
そんな彼女のことが昔から大好きだった。
それは今も変わらない。
あの相合い傘だって、好きだったから描いたんだ。
「雫……」
名前を呼ぶだけで、ほら。
こんなにも愛しい。
お願いだから……嫌いにならないで。
本当は……怖い。
雫の前では余裕な振りをしているけれど、彼女に嫌われることが何よりも怖いんだ。
彼女は目を覚ましたら…俺を拒絶するのだろうか。
まるで鷲掴みされたかのように胸がぎゅっと苦しくなる。
春の風に乗ってくる桜の花びら達を目で追いかけながら、俺はそこからしばらく動けなかった。

