「うっ…ヒック…」
走りながらも涙が止まらない。
泣き顔……見られちゃったな。
制服の袖でぐっと涙を拭って、ただがむしゃらに坂を下る。
知っていたんだ。
男の人の前で泣くのは…涙を見せるのはズルいってことくらい知ってた……。
だから泣いている時も『泣いてない』って言って強がってたの。
でも今回は……我慢できなかった。
光輝は引っ越し前日なのに、こんな別れ方……最悪だよね。
ごめんね……―――。
………その時だった。
「雫っ!!止まれっ!!!」
「……!」
……光輝の切羽詰まったような声を聞いた時には、もう遅かった。
はっとして見れば、黒い大型車が目の前に迫っていて。
思わず目を見開いた視界に映ったのは、運転手のすごく焦ったような表情だった。
キキーッ!!
車のブレーキを踏んだ音が妙に耳に残る。
回避不能だと悟ったあたしは、ぎゅっと目を瞑った。

