茜は独りでに小さく笑うと、
地べたに座り込んで顔を覆った。
「なあ、修平」
〈茜・・・?〉
俺の声が聞こえるのか?
茜は俺を呼んだ。
呼び返してみても反応はない。
茜は独り言のように話し始めた。
「あの日、嘘だって言ったこと。
あれさ、嘘じゃなかったり・・・するんだぜ」
〈え・・・〉
“俺は紗季ちゃんに恋愛感情はないよ”
茜の言葉が、何度も頭の中に響いた。
「本気で好きだったよ。だけどさ、
俺は結局お前に上手くいってほしかったんだよな」
茜の声が、微か掠れる。
俺はそんな茜の独り言を、ただ黙って聞いていた。
聞くことしか、俺には出来なかった。
「死ぬとか、反則だよなぁ。
来年も見るんじゃなかったのかよ・・・ばーか」
しばらく鼻をすする音が響いて、
それから茜はゆっくりと立ち上がった。
「そろそろ行かないとな。
俺がここにいちゃいけないからさ」
〈茜・・・っ!ありがとう。
ほんとに、ありがとう。ごめんな〉
そんな俺の言葉は、茜には届きやしない。
だけど茜は満足げに空を見上げて笑うと、
ゆっくりゆっくりとその場を離れた。
階段を下りる足音が消えて、
しばらくするとその階段を上がってくる足音が近付いた。


