「……ダメなんて……むしろ峠くんは好きよ。無意識に甘えてるというか、頼りにしてるというか……あれ?でも、峠くん、私に興味なかったじゃない。同情で、こんなめんどくさい女、背負(しょ)い込まないほうがいいって。」
気持ちはありがたいけど、峠くんにこれ以上迷惑をかけるのは気が引けた。
でも峠くんは、苦笑いしているようだった。
「まったく。……まなさん、俺のこと、ゲイだと勘違いしてたらしいですね。そうかと思えば、美子さんとくっつけようとするし。……まなさんと出会ってから、俺、翻弄されっぱなしですよ。」
「あ、ゲイじゃなかったんだ……。あまりにも女子に興味なさそうだし、私にもクールだから……加倉と仲いいし……」
「他の女子には一切興味ありません。わけわかんねーし。でも、まなさんのことは京都駅でレジュメ渡された時からずっと見てました。いや、まなさんしか目に入らなかった。一目惚れでした。だから本当は!上総より、俺のほうが先にまなさんを見てたのに……ただ見てるだけしかできなかった。」
峠くんは、あろうことか、2年前の一目惚れを告白した。
……気づかなかった。
しばらく沈黙が続いた後、峠くんは立ち上がってキッチンを片付け始めた。
帰るのかな。
何か言わなきゃ、と思うのだが、うまく言葉が出てこなかった。
完全に安全牌だと思っていた峠くんが役満でロンだよ、これ。
……でも、峠くんのことはめっちゃ信頼してるし、好きだ。
だからと言って、いや、だからこそ、上総んを忘れるために利用するのは失礼な気がした。
シンクをピカピカに磨き上げてから、峠くんは荷物を持った。
「帰ります。あの、本当に、俺を利用して元気になってくれたら本望ですから。明日の朝また来ます。おやすみなさい。」
「……うん。ありがとう。」
やっとそれだけ言った。
峠くんの大きな背中が、うちの狭い廊下を通って玄関へ向かう。
それを見てると、自分でも説明のできない想いがこみ上げてきた。
行かないでほしい。
独りにしないでほしい。
ひぐっ……と、喉の奥で変な音がした。
また呼吸困難になる!?
怖い!
「峠くん……ごめん……一緒にいてほしい。帰らんとって……」
言葉と涙が同時に溢れ出した。
振り返った峠くんの顔は、驚きで固まっていた。
「ごめん。ずるいってわかってるねんけど……怖いねん。また息できひんくなりそうで。苦しくて。胸が痛くて。……独りになるのが怖い……」
震える身体を、自分で抱きしめても、孤独はいや増すだけだった。
「まなさん……」
峠くんは荷物を玄関に放り出したまま、廊下を戻って来てくれた。
「ごめん。」
私は謝ることしかできなかった。
峠くんは苦笑して見せた。
「謝らないでください。俺、うれしいんですよ。まなさんの、そばにいられるだけで。」
一瞬、峠くんの手が私に伸びかけて、空(くう)をさまよい、おさめられた。
峠くんらしいな。
強引じゃない、押し付けがましくない好意が、今の私にはうれしかった。
自然に笑顔がこぼれ、涙と震えが止まった。
結局その夜、峠くんはうちに泊まってくれた。
今まで使ったことのない来客用のお布団を私のベッドの隣に敷いて、小さな灯りを付けたまま眠った。
夜中に悪夢で目が覚めたけれど、峠くんの寝顔を見ると、ホッとして再び眠ることができた。
気持ちはありがたいけど、峠くんにこれ以上迷惑をかけるのは気が引けた。
でも峠くんは、苦笑いしているようだった。
「まったく。……まなさん、俺のこと、ゲイだと勘違いしてたらしいですね。そうかと思えば、美子さんとくっつけようとするし。……まなさんと出会ってから、俺、翻弄されっぱなしですよ。」
「あ、ゲイじゃなかったんだ……。あまりにも女子に興味なさそうだし、私にもクールだから……加倉と仲いいし……」
「他の女子には一切興味ありません。わけわかんねーし。でも、まなさんのことは京都駅でレジュメ渡された時からずっと見てました。いや、まなさんしか目に入らなかった。一目惚れでした。だから本当は!上総より、俺のほうが先にまなさんを見てたのに……ただ見てるだけしかできなかった。」
峠くんは、あろうことか、2年前の一目惚れを告白した。
……気づかなかった。
しばらく沈黙が続いた後、峠くんは立ち上がってキッチンを片付け始めた。
帰るのかな。
何か言わなきゃ、と思うのだが、うまく言葉が出てこなかった。
完全に安全牌だと思っていた峠くんが役満でロンだよ、これ。
……でも、峠くんのことはめっちゃ信頼してるし、好きだ。
だからと言って、いや、だからこそ、上総んを忘れるために利用するのは失礼な気がした。
シンクをピカピカに磨き上げてから、峠くんは荷物を持った。
「帰ります。あの、本当に、俺を利用して元気になってくれたら本望ですから。明日の朝また来ます。おやすみなさい。」
「……うん。ありがとう。」
やっとそれだけ言った。
峠くんの大きな背中が、うちの狭い廊下を通って玄関へ向かう。
それを見てると、自分でも説明のできない想いがこみ上げてきた。
行かないでほしい。
独りにしないでほしい。
ひぐっ……と、喉の奥で変な音がした。
また呼吸困難になる!?
怖い!
「峠くん……ごめん……一緒にいてほしい。帰らんとって……」
言葉と涙が同時に溢れ出した。
振り返った峠くんの顔は、驚きで固まっていた。
「ごめん。ずるいってわかってるねんけど……怖いねん。また息できひんくなりそうで。苦しくて。胸が痛くて。……独りになるのが怖い……」
震える身体を、自分で抱きしめても、孤独はいや増すだけだった。
「まなさん……」
峠くんは荷物を玄関に放り出したまま、廊下を戻って来てくれた。
「ごめん。」
私は謝ることしかできなかった。
峠くんは苦笑して見せた。
「謝らないでください。俺、うれしいんですよ。まなさんの、そばにいられるだけで。」
一瞬、峠くんの手が私に伸びかけて、空(くう)をさまよい、おさめられた。
峠くんらしいな。
強引じゃない、押し付けがましくない好意が、今の私にはうれしかった。
自然に笑顔がこぼれ、涙と震えが止まった。
結局その夜、峠くんはうちに泊まってくれた。
今まで使ったことのない来客用のお布団を私のベッドの隣に敷いて、小さな灯りを付けたまま眠った。
夜中に悪夢で目が覚めたけれど、峠くんの寝顔を見ると、ホッとして再び眠ることができた。



