ほとんどパラダイス

「峠くんの雑炊、食べたい。」

申し訳ないけど病院のお粥は一口しか食べられなかった。

「……ワガママ~。峠くん、ね。了解。」

あれ?
本当に、持ってきてくれるの?
すんなりとわがままを聞いてもらえたことに驚いた。
そんなに、私の状況、悪いのかしら。
何か、怖いな。
怖い……。

いつの間にか、また寝てたらしい。
次に目が覚めたときには、山崎医師は白衣を着てなかった。
「峠くん、もうすぐ到着するって。」

「……何時?」
「深夜。」
「深夜って。勤務時間とっくに終わってはるんじゃないですか?」

山崎医師は苦笑した。
「とっくに、ね。でも、ここが特別室だからと言って、勝手にコンロ持ち込んで調理させるわけにもいかないから。お目付役?」

「特別室なんですか!?何で!?大部屋でいいのに!お金払えへんで!?」

驚いてそう聞くと、山崎医師は頷いた。

「わかってますよ。個室料金はつけません。よけいな心配はしなくていいから。」

……心配するだろ!普通は。
「ここ、どこ?」
改めて室内を見渡した。
安っぽいロッカーや小さな椅子じゃない、豪華な設備に気づいた。

「病院。」

「わかってるわ!……山崎先生の融通の利く病院てこと?ここの息子さん?」

「どうでもいいことが、一々気になるんですね。そりゃ、神経も疲れるって。今は一介の勤務医。もうすぐ院長の一人娘と結婚するので、未来の後継者ですかね。」
山崎医師はそう言ってから、おどけて見せた。
「だから、加倉(あいつ)とのことは、ココでは言わないでね。」

はあっ!?
「加倉がいるのに、女と結婚するの?加倉は、遊び?加倉も、それ、了承してるの?」

「はいはいはい。質問には1つずつしか答えません、よ。」
山崎医師はそう言って、私の目尻に指をあてた。
「……やっと泣いた。他人のためには泣けるんだ。安心した。」

本当だ。
普通に、加倉が心配で、私は涙ぐんでいた。

「先生にとって加倉はどういう存在ですか?」
改めてそう聞いた。

山崎医師は、私から手を離して苦笑した。
「愛しい恋人。でも、あいつと出会う前から、この結婚は決めてたから。どうせ、日本では同性婚もできないし。」

何だ、それ。
「納得できない!加倉も、結婚する奥さんも、かわいそう!」

そう言ってから、あれ?……と、引っかかった。
シチュエーション、似てないか?
加倉と私。
「……そっか。それであの時、加倉は私に『お前には、愛人無理』って言うたんや。自分は愛人でいいのか。」

山崎医師は少し驚いたようだ。
「そんなこと言ったの?君に?」

「うん。加倉、山崎先生のこと、本気で好きみたい。」

「それは知ってる。そうじゃなくて、あいつも、ずいぶんと君を大切に思ってるんだなって。」
山崎先生は照れもせず、胸を張ってそう言った。

「あ、そう。」
まあ、友達だよな。
加倉も、峠くんも、美子さんも。

コンコン、と軽いノック音が聞こえた。
「峠くん?」
「はい。入っていいですか?」
「どうぞ。……いいよね?」
山崎医師に確認されて、私は普通に頷いた。

……もし加倉なら甘えて八つ当たりしてしまいそうだし、上総んなら、また身体に変調をきたしたかもしれない。

美子さんには泣きつけそうな気がする。

そして峠くんは、私に癒やしをくれるように感じた。