しばらくすると、8代目が私を手招きした。
「何と言っても、お前さんに足りないのは色気だろ。珍しくご執心でけっこうなことだけど、お嬢さんは玄人じゃないんだから気をつけなさい。公になって傷つくのはお前さんじゃなくて、お嬢さんだからね。」
……ハッキリしてらっしゃる。
苦笑する私を見て、上総(かずさ)んはちょっと不満そうだった。
「別に傷物にして放り出すつもりはありませんよ。むしろ彼女が逃げられないように、大っぴらに紹介して回るつもりです。」
……阿呆か!
ほんまに、この人は……
「そんな時期じゃないでしょう。」
私がどう文句を言ってやろうかと睨んでると、8代目がやんわりと窘めた。
「頃合いですよ。この後の展開は火を見るより明らかでしょう?」
上総んはそう言って、また、化粧の続きを始めた。
8代目はため息をついた。
「……そうかい。お前さん、覚悟を決めたんだね。いいだろう。励みなさい。……居づらくなったら、私のところに来てもいい。」
居づらくなる?
今の一門に?
……確かに、師匠や奥様、ぼっちゃんだけじゃなく、お弟子さん達との関係もぎこちなくなっちゃったのなら……そういうことも可能なの?
上総んは、苦笑して8代目に頭を下げた。
「ありがとうございます。心強いです。でも、このままココでがんばります。……他の名前なら、いりません。」
何か、最後、すごいこと言わなかった?
「ほう!」
8代目も、少なからず驚いたようだ。
下剋上を望んでなかった上総んが、はじめて、欲を見せたのだ。
「そうかい。……わかったよ。及ばずながら私も応援するよ。いつでも相談にいらっしゃい。」
満足そうに8代目は立ち上がった。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
上総んは、両手をついて、深々と頭を下げた。
私もつられて下げかけたけど、ちょっと違う気がしたので、逆に背筋を伸ばして端座していた。
「それじゃお嬢さん。またお目にかかりましょう。」
そう言われてから、私もまた手をついて頭を下げた。
8代目は、夜の部は見ずに東京へと帰ってった。
今、ドラマの撮影中らしく、夜までに帰りたいらしい。
お忙しいのに、無理して来てくださったんだ……。
「よかったね。味方、いて。」
そう言うと、上総んは何とも言えない顔をして、私を抱きしめた。
「……甘やかしてはくれへん、喰えないヒトやけどな。……学美と一緒か。」
「あ、そう。甘やかさんでええのね?はい、離れて離れて!」
笑いながら、上総んの胸を両手で強く押しのけた。
夜の部でも、上総(かずさ)んは自分の元々の役と、ぼっちゃんの代役を立派につとめあげた。
特に舞踊は秀逸で、男ぶりも、技術も文句なしの出来だったと思う。
監事室からのお褒めの言葉をありがたく頂戴し、他の役者さん達に挨拶をして回る。
……出待ちのファンのかたがたには申し訳ないけど、時間がなかったので、別の出口から出てタクシーに乗り込んだ。
新幹線の中、上総んは私の肩に頭を預けて眠った。
私もまた、上総んの頭を枕に寝てしまってた。
2人して、明らかに睡眠不足だわ。
「何と言っても、お前さんに足りないのは色気だろ。珍しくご執心でけっこうなことだけど、お嬢さんは玄人じゃないんだから気をつけなさい。公になって傷つくのはお前さんじゃなくて、お嬢さんだからね。」
……ハッキリしてらっしゃる。
苦笑する私を見て、上総(かずさ)んはちょっと不満そうだった。
「別に傷物にして放り出すつもりはありませんよ。むしろ彼女が逃げられないように、大っぴらに紹介して回るつもりです。」
……阿呆か!
ほんまに、この人は……
「そんな時期じゃないでしょう。」
私がどう文句を言ってやろうかと睨んでると、8代目がやんわりと窘めた。
「頃合いですよ。この後の展開は火を見るより明らかでしょう?」
上総んはそう言って、また、化粧の続きを始めた。
8代目はため息をついた。
「……そうかい。お前さん、覚悟を決めたんだね。いいだろう。励みなさい。……居づらくなったら、私のところに来てもいい。」
居づらくなる?
今の一門に?
……確かに、師匠や奥様、ぼっちゃんだけじゃなく、お弟子さん達との関係もぎこちなくなっちゃったのなら……そういうことも可能なの?
上総んは、苦笑して8代目に頭を下げた。
「ありがとうございます。心強いです。でも、このままココでがんばります。……他の名前なら、いりません。」
何か、最後、すごいこと言わなかった?
「ほう!」
8代目も、少なからず驚いたようだ。
下剋上を望んでなかった上総んが、はじめて、欲を見せたのだ。
「そうかい。……わかったよ。及ばずながら私も応援するよ。いつでも相談にいらっしゃい。」
満足そうに8代目は立ち上がった。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
上総んは、両手をついて、深々と頭を下げた。
私もつられて下げかけたけど、ちょっと違う気がしたので、逆に背筋を伸ばして端座していた。
「それじゃお嬢さん。またお目にかかりましょう。」
そう言われてから、私もまた手をついて頭を下げた。
8代目は、夜の部は見ずに東京へと帰ってった。
今、ドラマの撮影中らしく、夜までに帰りたいらしい。
お忙しいのに、無理して来てくださったんだ……。
「よかったね。味方、いて。」
そう言うと、上総んは何とも言えない顔をして、私を抱きしめた。
「……甘やかしてはくれへん、喰えないヒトやけどな。……学美と一緒か。」
「あ、そう。甘やかさんでええのね?はい、離れて離れて!」
笑いながら、上総んの胸を両手で強く押しのけた。
夜の部でも、上総(かずさ)んは自分の元々の役と、ぼっちゃんの代役を立派につとめあげた。
特に舞踊は秀逸で、男ぶりも、技術も文句なしの出来だったと思う。
監事室からのお褒めの言葉をありがたく頂戴し、他の役者さん達に挨拶をして回る。
……出待ちのファンのかたがたには申し訳ないけど、時間がなかったので、別の出口から出てタクシーに乗り込んだ。
新幹線の中、上総んは私の肩に頭を預けて眠った。
私もまた、上総んの頭を枕に寝てしまってた。
2人して、明らかに睡眠不足だわ。



