「上総ん的には、どれがいいの?」
そう聞いてみると、上総んは苦笑した。
「決まってる。ずっと俺のそばにいてほしい。楽屋でも、奈落でも、舞台でも……は、無理か。」
ちょっと呆れたけれど、状況が状況なので私は上総んの望みになるべく添いたい。
「わかった。任せる。」
私はそう言って、上総んの膝から立ち上がった。
「じゃあ、少し食べて、仮眠したほうがいいわ。お稽古しないなら、楽屋に行こう?」
すると上総んは私を見上げてまぶしそうに目を細めた。
「……ほんと、かなわないな。」
どういう意味?
上総んは、よいしょと立ち上がって、私の手を取った。
「……任せるって、言いながら、学美のほうがイニシアチブを取る。」
「単に行動が早いだけじゃないの?」
「いや。ずっと暗中模索してたんだよ、俺。でも、学美があかりを灯して、進む道を示してくれてる気がする。出会ってから、ずっと、そう。」
上総んは私の肩を抱いて身体をくっつけて歩いた。
まだ誰もいない楽屋で、上総んは私の膝を枕に眠った。
白い綺麗な肌に、黒い長めのまつげが呼吸とともに揺れて影を落とすのを飽きもせず眺めた。
……ただ、愛しかった。
「おや……」
不意に柔らかいおじさんの声がした。
戸口を見ると、テレビで見覚えのあるお顔。
有名な歌舞伎役者さんだ!
確か……蓬莱屋の大旦那。
8代目だったかな。
私は、慌てて上総んを起こそうとした。
けど8代目は
「しぃ~。寝かせてあげなさい。徹夜でお稽古したのでしょう。」
と、小声で言った。
……優しい笑顔と口調。
なんだ、上総ん、ちゃんと味方いるやん。
このヒトは、上総んに好意的な気がする!うん!
「事務所で挨拶してきますから、起きたら私に電話するように伝えてくれますか?……お嬢さん、お名前は?」
そう言われて、私も小声で言った。
「紫原(しはら)学美と申します。必ず伝えます。すみません。」
「……ん……」
あ、起きちゃった。
上総んの目がパチッと開いた。
一瞬ぼーっとしてたようだけど、上総んは私を見ると、ニコーッと笑って、手を伸ばして私の頬に触れた。
「ちょっ!お客さま!起きた起きた!」
慌てて私は上総んの手を払いのけた。
上総んは、しょんぼりした顔のまま起き上がり、戸口を見て……固まった。
「大旦那……」
「おはよう。どうだい?できそうかい?」
口調は優しげだけど、強さを感じた。
「やれるだけのことはやりましたが、自己流です。……見ていただけますか?」
上総んは、正座し直して、畳に手をついてそう言った。
8代目は、ニコリともせずにうなずいた。
まさかとは思ったけれど、このかたは、上総んを心配してわざわざ東京から始発で来てくださったようだ。
聞けば、今回の舞踊は8代目のお家芸で、上総んのぼっちゃんは、この8代目から教わったらしい。
……そして、この蓬莱屋の8代目は……上総んのお父さんと仲良しだったらしい……。
ただそれだけのご縁なのだけれど、お仕事の合間を縫って、こうして見に来てくださったのか。
2人のお稽古を端っこで眺めて、私は胸を熱くした。
そう聞いてみると、上総んは苦笑した。
「決まってる。ずっと俺のそばにいてほしい。楽屋でも、奈落でも、舞台でも……は、無理か。」
ちょっと呆れたけれど、状況が状況なので私は上総んの望みになるべく添いたい。
「わかった。任せる。」
私はそう言って、上総んの膝から立ち上がった。
「じゃあ、少し食べて、仮眠したほうがいいわ。お稽古しないなら、楽屋に行こう?」
すると上総んは私を見上げてまぶしそうに目を細めた。
「……ほんと、かなわないな。」
どういう意味?
上総んは、よいしょと立ち上がって、私の手を取った。
「……任せるって、言いながら、学美のほうがイニシアチブを取る。」
「単に行動が早いだけじゃないの?」
「いや。ずっと暗中模索してたんだよ、俺。でも、学美があかりを灯して、進む道を示してくれてる気がする。出会ってから、ずっと、そう。」
上総んは私の肩を抱いて身体をくっつけて歩いた。
まだ誰もいない楽屋で、上総んは私の膝を枕に眠った。
白い綺麗な肌に、黒い長めのまつげが呼吸とともに揺れて影を落とすのを飽きもせず眺めた。
……ただ、愛しかった。
「おや……」
不意に柔らかいおじさんの声がした。
戸口を見ると、テレビで見覚えのあるお顔。
有名な歌舞伎役者さんだ!
確か……蓬莱屋の大旦那。
8代目だったかな。
私は、慌てて上総んを起こそうとした。
けど8代目は
「しぃ~。寝かせてあげなさい。徹夜でお稽古したのでしょう。」
と、小声で言った。
……優しい笑顔と口調。
なんだ、上総ん、ちゃんと味方いるやん。
このヒトは、上総んに好意的な気がする!うん!
「事務所で挨拶してきますから、起きたら私に電話するように伝えてくれますか?……お嬢さん、お名前は?」
そう言われて、私も小声で言った。
「紫原(しはら)学美と申します。必ず伝えます。すみません。」
「……ん……」
あ、起きちゃった。
上総んの目がパチッと開いた。
一瞬ぼーっとしてたようだけど、上総んは私を見ると、ニコーッと笑って、手を伸ばして私の頬に触れた。
「ちょっ!お客さま!起きた起きた!」
慌てて私は上総んの手を払いのけた。
上総んは、しょんぼりした顔のまま起き上がり、戸口を見て……固まった。
「大旦那……」
「おはよう。どうだい?できそうかい?」
口調は優しげだけど、強さを感じた。
「やれるだけのことはやりましたが、自己流です。……見ていただけますか?」
上総んは、正座し直して、畳に手をついてそう言った。
8代目は、ニコリともせずにうなずいた。
まさかとは思ったけれど、このかたは、上総んを心配してわざわざ東京から始発で来てくださったようだ。
聞けば、今回の舞踊は8代目のお家芸で、上総んのぼっちゃんは、この8代目から教わったらしい。
……そして、この蓬莱屋の8代目は……上総んのお父さんと仲良しだったらしい……。
ただそれだけのご縁なのだけれど、お仕事の合間を縫って、こうして見に来てくださったのか。
2人のお稽古を端っこで眺めて、私は胸を熱くした。



