まだ真っ暗な夜明け前に出発した。
一応、父親に置き手紙を残した。
「松尾教授のお手伝いで民俗調査」と、帰宅時期の曖昧な嘘をつかせてもらった。
……これは松尾教授がゼミ学生に勧めるアリバイの1つだ。
まさか自分がコレを利用する日が来るとは思わなかった。
苦笑が出てくる。
でも、今はそれどころじゃない。
早く逢いたい……。
車内でネットの掲示板を見た。
ぼっちゃんの事故は、夜中のうちにマスコミに伝わったらしく、ニュースになっていた。
代役を上総(かずさ)んがすることについては、賛否両論だった。
名題試験も受けていないお弟子さんが代わりになるはずがない。
……今回の代役抜擢は……12代目の血筋であることのカミングアウトなのではないかと既に騒がれているらしい。
上総ん、失敗しても成功しても、大変なことになりそう。
あ、そうだ。
松尾教授にも連絡しておこう。
無事に始発に乗ってから、松尾教授にメールした。
<上総んが、ぼっちゃんの代役をするそうです。見届けてきます。>
どんな結果に終わっても、ちゃんとそばで見届けよう。
早朝6時半。
上総んに指示されたとおり、劇場地下の事務所の入口を訪ねると、警備員さんが出てきてくれた。
「ごくろうさまです。」
と言われて、たじろいだ。
私、どういう位置付けなんだろう。
「朝早くから申し訳ありません。よろしくお願いします。」
自分でもよくわからない挨拶をして、案内していただいた。
照明を絞った暗い舞台で、上総んは1人で踊っていた。
イヤホンを付けてるらしく、息苦しいほど無音の舞台で、上総んの足音や息づかいだけが響いていた。
警備員さんに黙礼して、舞台の脇に座った。
上総んが動くと汗が飛び散る。
かっこいい……けど、鬼気迫る……
でも、何か、すごく上手い気がする。
てか、上手いよ。
ぼっちゃんより、間違いなく上手いだろ。
何か、大丈夫な気がしてきた。
うん!
大丈夫!
一曲踊りきったらしく、上総んは見栄を切ったまま微動だにしなくなった。
そして、どっと脱力して、舞台に手をついて座った。
拍手でもすべきか、声をかけるべきか……迷ってると、上総んのほうから私に気付いてくれた。
「……学美(まなみ)。」
まだ整わない弾んだ息。
汗だくの上気した頬。
……ベッドで抱かれてる時の上総んだ……。
こんな時に不謹慎かもだけど、身体の奥がキューって疼いた。
セクシー上総ん!
「かわいい顔してる。どうした?」
そんな風に言われて、私は……つい、いつものように言ってしまった。
「どうしたもこうしたもないわ!色惚けしてる時ちゃうやろ!暢気な奴!」
……ああ、私の馬鹿。
何で、こんな時に優しくしてあげられないのー!
最悪。
かっこいい!
すごくいい!
大丈夫ね!
本番が楽しみ!
……て、励まして褒めてあげなきゃいけないのに。
阿呆すぎる。
後悔しても出てしまった言葉は引っ込まず、私は顔をしかめたまま上総んのそばに歩み寄って、買ってきたポカリを手渡した。
上総んの手はポカリを素通りし、私の身体をギュッと捕らえて引き寄せた。
汗だくの上総んの身体は、むしろ冷たく感じた。
一応、父親に置き手紙を残した。
「松尾教授のお手伝いで民俗調査」と、帰宅時期の曖昧な嘘をつかせてもらった。
……これは松尾教授がゼミ学生に勧めるアリバイの1つだ。
まさか自分がコレを利用する日が来るとは思わなかった。
苦笑が出てくる。
でも、今はそれどころじゃない。
早く逢いたい……。
車内でネットの掲示板を見た。
ぼっちゃんの事故は、夜中のうちにマスコミに伝わったらしく、ニュースになっていた。
代役を上総(かずさ)んがすることについては、賛否両論だった。
名題試験も受けていないお弟子さんが代わりになるはずがない。
……今回の代役抜擢は……12代目の血筋であることのカミングアウトなのではないかと既に騒がれているらしい。
上総ん、失敗しても成功しても、大変なことになりそう。
あ、そうだ。
松尾教授にも連絡しておこう。
無事に始発に乗ってから、松尾教授にメールした。
<上総んが、ぼっちゃんの代役をするそうです。見届けてきます。>
どんな結果に終わっても、ちゃんとそばで見届けよう。
早朝6時半。
上総んに指示されたとおり、劇場地下の事務所の入口を訪ねると、警備員さんが出てきてくれた。
「ごくろうさまです。」
と言われて、たじろいだ。
私、どういう位置付けなんだろう。
「朝早くから申し訳ありません。よろしくお願いします。」
自分でもよくわからない挨拶をして、案内していただいた。
照明を絞った暗い舞台で、上総んは1人で踊っていた。
イヤホンを付けてるらしく、息苦しいほど無音の舞台で、上総んの足音や息づかいだけが響いていた。
警備員さんに黙礼して、舞台の脇に座った。
上総んが動くと汗が飛び散る。
かっこいい……けど、鬼気迫る……
でも、何か、すごく上手い気がする。
てか、上手いよ。
ぼっちゃんより、間違いなく上手いだろ。
何か、大丈夫な気がしてきた。
うん!
大丈夫!
一曲踊りきったらしく、上総んは見栄を切ったまま微動だにしなくなった。
そして、どっと脱力して、舞台に手をついて座った。
拍手でもすべきか、声をかけるべきか……迷ってると、上総んのほうから私に気付いてくれた。
「……学美(まなみ)。」
まだ整わない弾んだ息。
汗だくの上気した頬。
……ベッドで抱かれてる時の上総んだ……。
こんな時に不謹慎かもだけど、身体の奥がキューって疼いた。
セクシー上総ん!
「かわいい顔してる。どうした?」
そんな風に言われて、私は……つい、いつものように言ってしまった。
「どうしたもこうしたもないわ!色惚けしてる時ちゃうやろ!暢気な奴!」
……ああ、私の馬鹿。
何で、こんな時に優しくしてあげられないのー!
最悪。
かっこいい!
すごくいい!
大丈夫ね!
本番が楽しみ!
……て、励まして褒めてあげなきゃいけないのに。
阿呆すぎる。
後悔しても出てしまった言葉は引っ込まず、私は顔をしかめたまま上総んのそばに歩み寄って、買ってきたポカリを手渡した。
上総んの手はポカリを素通りし、私の身体をギュッと捕らえて引き寄せた。
汗だくの上総んの身体は、むしろ冷たく感じた。



