ほとんどパラダイス

「最後の粕汁は余計だったか。」

上総さんは、そう言いながら、ポイポイと服を脱いでいく。
白い体がまぶしすぎる。

「ちょっと!何してんのよ。」
照れ隠しにそう睨む。

「何って。お風呂。汗かいたし。学美も一緒に入ろう。」
「いや~~~!恥ずかしい!無理!」
そう言って逃げ出そうとしたけれど、狭いユニットバスの中、あっさりと裸の上総さんに捕らえられた。
「ほら、胃液臭い。洗ってあげるから。」

ひどい! 涙がまたこみ上げてきた。
わざとデリカシーのない言い方をして虐めてる~~~!

「泊まれる?」
器用に着物をするすると脱がせながら、上総さんはそう聞いた。

「絶対無理!帰る!」
意地でも泊まらない!……と、私は涙目で睨んだ。




「何となく、俺も松尾先生の生徒になった気がした。」
ひとしきり暴れたその後で、上総さんは私のお尻をゆるゆる撫でながらそう言った。
泣き喚くほど翻弄された私は、ぐったりしてしまってて、返事をしようにも声がかすれた。

「……そうかもね……」
さすがに、松尾教授が上総さんと仲良くなってコネクションをつなげようとしている、とあからさまには言えなかった。

「いい先生だねえ。学美の先のことも考えてくれて。……マジで、東京においでよ。」
「……そうね。」
ぼんやりとそう返事した。

まさか私が了承するとは思わなかったらしく、上総さんは驚いたようだ。
「え!?いいの?」
「……いいも何も、私の人生やし。」
あなたは関係ない、と言外に匂わせたつもりだった。

でも上総さんは、華麗にスルーした。
「やった!」
無邪気に喜ぶ姿はかわいくもあり……うらめしくもあった。

いつまでそんな風に思うのだろう。
そばにいれば、欠点も見えてくるし、飽きるのも早まるだろうに。
離れてるほうが、長続きするだろうに。


しばらくしてから、上総さんはコーヒーを入れてくれた。
「こうして一緒に過ごす時間をいくつ重ねたら、学美は俺のものになってくれるかな。」

……まだ満足できないのか。
私の「はじめて」をすべて奪ったのに。
体だけじゃない。
心だって、逢う度に……好きって想いが強くなってくのに。

「かず坊くんは、欲張りね。」
「かず坊言うなー。学美がクール過ぎるんだよ。」
「そう?これでも、自分でもびっくりするぐらい、好きになってるんだけど……上総(かずさ)んが。」

自分的には「かずさん」でも「和さん」でもなく「上総ん」なんだけど……このニュアンス、伝わんないだろうなあ。

上総んはニコッと笑って私の頭を撫でてくれた。
「そっか。ありがと。うれしいよ。でももっともっと俺のこと、好きになって。片時も離れたくないぐらい。ずっとそばにいたい、ってぐらい。」

……こわっ。
「そんな怖いことよく言えるわ。ストーカーになれって?」

別れることを前提にしてる私と、漠然と2人の未来を夢見はじめてるらしい上総さんとの乖離(かいり)を感じて笑えた。

……嘘だ。
笑えない。
突き詰めて考えると、つらい。