「楽しそうなゼミですね。学美は、大学院でも松尾教授に師事するんですか?」
私は当然とばかりにうなずいた。
でも、松尾教授は、ちょっと声のトーンを落として言った。
「私、あと1年で定年なのよ。……紫原は、他の先生についたほうがいいと思う。」
「え!?嘘!先生、残らはるんじゃないんですか!?」
聞いてない!
「残るつもりだったんだけどね・・母の介護もあるし、定年で辞めたほうが退職金がいいの。だから、思い切って教授は退職する予定。研究も著作も続けるけどね。」
……そんな……。
黙りこくった私に、松尾教授は言った。
「この際だから、紫原、東京を受けてみない?……野田教授、ちょうど研究テーマも近いし。」
「それがいい!学美!東京においでよ!」
私の気持ちを無視して、上総(かずさ)さんが松尾教授の提案に飛びついた。
なんでやねん!
「嫌。」
ちょっとムッとしたので、そう即答した。
「え~、何で?俺、1年の10ヶ月は確実に東京なのに。」
「公私混同して進路を決めるつもりはありません。」
つーんと顎を放り出すようにそう言った。
「……まあ、上総丈のことはさておき、紫原は上を目指すなら、退官が見えてる私より、野田教授のほうがいいと思う。マスターで終わるつもりないんでしょ?博士論文書くんでしょ?」
締めの粕汁を無理矢理飲まされて、四苦八苦してる私に、とろ~んと酔った目で松尾教授が言った。
「もちろん書きます。研究者になります。……でも、野田教授……苦手なタイプです。体育会系の熱さも、最終日にコロッと態度を変えたことも。あのヒト、媚びてくる学生ばかり可愛がってましたよ。」
粕汁をそっと脇に押しやってそう言った。
「……まあ、男は美人に弱いし、懐いてくる子をかわいいと思うのは自然なことだと思うけど。」
上総さんが、粕汁を私に再び持たせながらそう言った。
「そうよ。自然なこと。紫原は潔癖過ぎるの。……男にきつすぎる。いいじゃない、せっかく気に入られる要素があるんだから、せいぜい利用しなさいな。」
しぶしぶ粕汁を口に含んだ私を見て、松尾教授は笑った。
「野田教授は、確かに身贔屓の強いヒトだけど、言い換えると、自分の抱えた学生は就職先まで面倒をみようとする、今時稀有な御仁よ。そのせいで、外部からの学生を取らないことでも有名なんだけど……この間の紫原なら受け入れてもらえる気がする。チャレンジしてみれば?」
そんなチャレンジしたくないって!
「実力では合格できないんですか!?」
松尾教授は、クッと笑った。
「阿呆な子ぉやね。かわいいけど。……この世界、どれだけ業績上げたって、誰も採用してくれないわよ。大切なのは、コネ。だからあんたを野田教授に引き合わせたんじゃない。」
なんか、泣けてきた。
汚い。
この業界だけじゃない。
わかってる。
世の中なんて、そんなものだ。
でも……女ながらに一流私大の教授になった松尾教授がそんなこと言うなんて……。
私は当然とばかりにうなずいた。
でも、松尾教授は、ちょっと声のトーンを落として言った。
「私、あと1年で定年なのよ。……紫原は、他の先生についたほうがいいと思う。」
「え!?嘘!先生、残らはるんじゃないんですか!?」
聞いてない!
「残るつもりだったんだけどね・・母の介護もあるし、定年で辞めたほうが退職金がいいの。だから、思い切って教授は退職する予定。研究も著作も続けるけどね。」
……そんな……。
黙りこくった私に、松尾教授は言った。
「この際だから、紫原、東京を受けてみない?……野田教授、ちょうど研究テーマも近いし。」
「それがいい!学美!東京においでよ!」
私の気持ちを無視して、上総(かずさ)さんが松尾教授の提案に飛びついた。
なんでやねん!
「嫌。」
ちょっとムッとしたので、そう即答した。
「え~、何で?俺、1年の10ヶ月は確実に東京なのに。」
「公私混同して進路を決めるつもりはありません。」
つーんと顎を放り出すようにそう言った。
「……まあ、上総丈のことはさておき、紫原は上を目指すなら、退官が見えてる私より、野田教授のほうがいいと思う。マスターで終わるつもりないんでしょ?博士論文書くんでしょ?」
締めの粕汁を無理矢理飲まされて、四苦八苦してる私に、とろ~んと酔った目で松尾教授が言った。
「もちろん書きます。研究者になります。……でも、野田教授……苦手なタイプです。体育会系の熱さも、最終日にコロッと態度を変えたことも。あのヒト、媚びてくる学生ばかり可愛がってましたよ。」
粕汁をそっと脇に押しやってそう言った。
「……まあ、男は美人に弱いし、懐いてくる子をかわいいと思うのは自然なことだと思うけど。」
上総さんが、粕汁を私に再び持たせながらそう言った。
「そうよ。自然なこと。紫原は潔癖過ぎるの。……男にきつすぎる。いいじゃない、せっかく気に入られる要素があるんだから、せいぜい利用しなさいな。」
しぶしぶ粕汁を口に含んだ私を見て、松尾教授は笑った。
「野田教授は、確かに身贔屓の強いヒトだけど、言い換えると、自分の抱えた学生は就職先まで面倒をみようとする、今時稀有な御仁よ。そのせいで、外部からの学生を取らないことでも有名なんだけど……この間の紫原なら受け入れてもらえる気がする。チャレンジしてみれば?」
そんなチャレンジしたくないって!
「実力では合格できないんですか!?」
松尾教授は、クッと笑った。
「阿呆な子ぉやね。かわいいけど。……この世界、どれだけ業績上げたって、誰も採用してくれないわよ。大切なのは、コネ。だからあんたを野田教授に引き合わせたんじゃない。」
なんか、泣けてきた。
汚い。
この業界だけじゃない。
わかってる。
世の中なんて、そんなものだ。
でも……女ながらに一流私大の教授になった松尾教授がそんなこと言うなんて……。



