ほとんどパラダイス

退屈だなあ、と思ってると、派手な格好の捕り手たちが現れた。
花四天、と言うことを、さっき松尾教授に教わった。
その中に、いたいた!
さっきよりも素顔に近い化粧を施した上総さん。

か、かっこいい!
いつもより、男っぽくて、マジでかっこいい!
しかも、何?
宙返りしたよー!?
すごくない?
ええっ!?まじで!?
ひや〜〜〜〜〜!

……やばい。
ドキドキする。
やだもう、反則だわ、こんなの。
泣けてきた。
私、こんな人に……抱かれたのか。


終演後、松尾教授にバッチリ見られてしまった……涙の跡。
「あらあらあら〜。紫原、かわいい。そーかそーか。上総丈に惚れたか。」

いつものように、言い返したいのに、否定できなかった。
ただ、
「配役、逆のほうがいいですよね、あれ。」
と、憮然と言った。

客席を出て、携帯の電源を入れる。
松尾教授の携帯に、上総さんからメッセージが届いていた。
観劇のお礼と夕食のお誘い!

私の携帯には、「今夜は泊まれる?」とだけ。
……もちろん帰るって。

「適当な店で待ってて、ってあるけど……どうせなら……ねえ?」
松尾教授が不穏な笑顔を見せた。

「はい?まさかまた楽屋に押しかけるつもりじゃないですよね?他の出演者もいらっしゃるし、迷惑ですよ!」
思わずそう止めると、松尾教授はパタパタとお扇子であおいでごまかした。
「わかってるわよー。上総さんにとって、師匠のご子息が出てんだから、お世話もあるだろうし。そうじゃなくて、楽屋口の出待ち。の、ギャラリーをしましょ。」

出待ち、するんじゃなくて、出待ちの様子を見るの?
「なんか、ストーカーみたいで嫌かも。」
そう言ってみたけれど、松尾教授は私の手を掴んで引っ張った。


楽屋口には、けっこうな数の女の子がいた。
テレビに出てる人気の役者の時には、もっとたくさんの女の子がプレゼントやお花を持って待ってるらしい。

「まあ、そこそこの年齢やポジションの役者だと、楽屋に連れて上がってくれたりもするし、歌舞伎役者は普通の芸能人よりもはるかに近づきやすいと言えば近づきやすいのよね。その分、お花代とかお祝儀もいるけど。」
なんと、松尾教授は、若い頃、歌舞伎役者に入れあげたことがあるらしい。
「もちろん私は、お弁当作って差し入れるイタいファンでしかなかったけどね。」

……それは、逆に、すごい……。

そんな話を聞きながら楽屋口を見てると、化粧を落として私服に着替えた役者さんたちがちらほら出てきた。
みなさん、白くて、つるつるのお肌だなあ。
遠巻きにぼんやり見ていた……ら、だいぶんたってから、上総さんが出てきた。
すると、女の子達が一気に色めき立った。

……え?
このお嬢さんがた、みんな、上総さんを待ってたの?
マジで?

呆然としてる私を、松尾教授が肘でつついた。
「上総丈の人気を目の当たりにした感想は?」
「……まあ、モテるだろうとは思ってましたけど……予想以上でした。」
正直にそう言ったのだけど、松尾教授はつまんなさそうだった。
「もうちょっと、浮かれるとか、心配になるとか、不機嫌になるとか、反応してよ。」
「……私には関係ないことなので。」

そう、関係ない。
どれだけのファンがいようと、別に付き合ってるヒトがいようと、つまみ食いする女が何人いようと。