ほとんどパラダイス

私は目を閉じて、心のままに言葉を紡いだ。

「好き。……昨日の今日で馬鹿みたいやけど。」

クッと小さい笑い声が聞こえた。

目を開けると、上総(かずさ)さんが苦笑していた。

「一言多いよ。でも、ありがと。ホッとした。片想い終了。これから恋人ね。」

そう言って、上総さんはまぶたや、頬、額、鼻にまで軽いキスの雨を降らせた。

くすぐったくって、つい笑ってしまった。
すかさず唇がふさがれ、舌がにゅるりと侵入してきた。
驚いて目を見開いたけど……あまりにも綺麗な上総さんのまぶたやまつげに……毒気を抜かれた。

一分の隙もないって、こういうことかも。
それに、ディープキス……心地いい。
気持ち悪いどころか、身体の奥が熱くなるような、そんな熱のこもった深いキスだった。

……恋人って、言った。

そんなわけないのに。
やだ……これ以上、馬鹿みたいに浮かれたくない。

理性ではそう思うのだけれど、長い長いキスに魂を抜かれてしまったらしい。
やっと唇が離れた時、少し淋しく感じた。

……重症だわ。

「続きは、今度逢う時までお預け、かな。」
名残惜しそうに上総さんが私の髪を撫でながら言った。

今度って、12月?
……ついさっき「恋人」って言ったくせに……・ほんとに12月まで逢えないの?

涙がじんわりと浮かんできた。
でも、かわいいことは何も言えなかった。

「ほら、眉間にしわ寄せて、唇噛まないの。せっかく綺麗なのに。そんなひどい表情ばっかりしてると、顔が歪むよ。」
「……少し歪めば、目立たなくてすむかも。」
「また、そんなこと言う!もったいないよ。」
「だって!」

声を荒げてしまった。

「だって!……どうせ上総さんは12月まで来ぉへんのでしょ?」

上総さんがちょっと笑った。
「あれ?学美、本気で逢いに来てくれないの?」
「……だって……」

東京は、遠い。
いきなりこんな……昨日はじめて逢った、それも売れてなくても芸能人と……まるでそんな……遠距離恋愛みたいな……信じられない。

「だって、ばっかり。……そっかぁ。ショック。」
ちょっと傷ついた顔をした上総さん。

驚いて、顔を上げた。
目が合った。

……上総さんの目……綺麗な黒い闇に吸い込まれそう。

「いっそこのまま拉致して連れて帰っちゃおうかな。」
ボソッとそう言われた。

「冗談!」
「……冗談でココまでしないよ。」
そう言われて、ハッとした。

確かに、昨日はともかく……いわゆる遊び慣れたヒトの遊びの範疇を超えてるかもしれない。

私はたっぷり逡巡してから、言った。
「……わかった。夏休みにアルバイトすれば、9月……後期が始まる前に1度ぐらいは行けるかも。」

こんなのが続くとは思わない。
でも1度ぐらいなら……いいよね?

もう少しだけ、このヒトを知りたい……見ていたい……。