ほとんどパラダイス

「あ、そうだ。これ、何?」
上総(かずさ)んに渡された封筒をあけた。
中には、達筆の目録と、宝石屋さんのケース?

「お母さんの茶道具の目録と……学美ちゃん、ルビー置いてったろ?あれは君のモノだから。でも指輪のままじゃ気づつないだろうから、ペンダントに加工してもらった。」
「そんな……。私がもらうわけには、」
「じゃあ、峠くんに。結婚祝。」
上総んは私から箱を取り上げて、峠くんに手渡した。

峠くんは、上総んと私を交互に見てから、うなずいた。
「……まなさん。心のこもった贈り物、いただいたよ。よかったね。」

ホロッと涙がこぼれ落ちた。
「うん。ありがとう。」
上総んにではなく、峠くんにお礼を言った私に、上総んは苦笑い。

「……思えば、学美ちゃんは俺には反抗的なのに、峠くんにはいつも素直だよね。俺、学美ちゃんの性格がきっついと諦めてたけど、単に気を許してなかったのかな。心の壁?」

峠くんは、ちょっと笑った。
「……まなさんは、優しいよ。誰よりも。」

本気でそう言ってる峠くんに、私のほうが恥ずかしくなった。
「峠くん、さすがにそれは言い過ぎかと……」

でも峠くんは、キッパリ繰り返した。
「まなさんは、優しいよ。」

「そうよ。紫原さん、すごく優しい。大好きよ。」

苦笑する私と上総んとは対照的に、峠くんと美子さんはそう信じて疑ってなかった。

ま、いっか。




その秋、私達の周辺はちょっとしたベビーブームとなった。

峠くんの兄夫婦には女の子が生まれた。

上総んと美子さんのところには男の子……お腹の子の性別が男とわかった段階で、2人は入籍した。

そして、私は直接存じ上げてないけど、峠くんのバイト先、「IDEA(イデア)」の一条 暎(はゆる)さんにも隠し子の男の子が誕生。

さらに、私の代わりに東北の大学で専任講師になった池尻嬢も出産した、が、離婚して、子供は園田氏が引き取った。



「で?あんた達は?どうなの?」
冬休みに入ると京都の松尾先生のもとへ向かった。
上総んの舞台を見て、滋賀の私の実家に寄って、岐阜の峠家でお正月を迎える予定だ。

「どうって言われても!2人とも学生だし。子供を育てる余裕は……」
慌ててそう言ったら、松尾先生に呆れられた。
「馬鹿ね。そんなことどうでもいいわよ。就職よ。どう考えてるの?紫原、あんた、野田くんの口利き断ったんでしょ?どうする気なの!」

「あ~……そうですね。とりあえず、非常勤講師をしながら博論書いて~。峠くんは、修論書き終えてから……どうする?」

峠くんは苦笑した。
「……修論書き終えるまで、今まで通り、美術館と博物館の採用試験を受け続けます。ダメなら、料理人ですかね。」

「あら、もうイロイロ受けてるの?」
「そうなんですよー。峠くん、書類と一次試験は必ず受かるんですけど、面接で落ちるんです。」

「面接って……何か、変なこと言ってるの?」
松尾先生は興味深げに、峠くんに聞いた。

「……嘘は言えませんから。」
困ってる峠くんに、私は苦笑した。

「峠くん、馬鹿正直なんですよ。」