「……こっちのほうが早かった。上総(かずさ)。今夜はお呼ばれで遅くなるって。……いいよね?」
いつの間にか、峠くんが上総んと直接やり取りしてた。
「いいけど。美子さん、忙しいのかな?」
無言で峠くんは携帯を操作して、しばらくしてから言った。
「このところ体調が悪いらしくて病院に行ったみたい。……あ……上総の慕ってた祇園のお茶屋の女将、亡くなったんだって。上総が舞台で動けないから、美子さんが代わりに京都に日参してたらしい。それで体調崩したって。」
え?
祇園のお母さん……亡くなったの?
先月、お会いできなかったのって、もう具合が悪かったのかしら。
うわ……ショック。
本気で落ち込んでく私を、峠くんは黙って抱きとめてくれた。
お会いしたかったな。
せめて葬儀にはうかがいたかった。
でも……上総んと別れた今、私は完全に部外者。
お母さんも上総んも、ケジメをつけたのだろう。
悲しいけれど、仕方ないのかもしれない。
「素敵なヒトだったの。私、大好きだったの。」
つぶやくようにそう言った。
「……うん。今度京都に行ったら、お墓参りさせてもらおうか。」
期待に応えられなかったことを墓前で謝らないと、な。
お母さんからもらった、過分な愛情と優しさを思い出して、また泣いた。
夜。
峠くんは、芸能人宅から直接、割烹のバイトに入った。
私は22時頃にうかがった。
お店のドアに貸切と書いた紙が貼られていた。
店内にはまだ他のお客さんもいたけれど、大将に帰るように促されていた。
「こんばんは。」
静かめにそう挨拶して、カウンターの端に座った。
「いらっしゃい。久しぶり。」
大将にそう言われて、慌てて頭をぺこりと下げた。
峠くんも奥からちょっと顔を出して会釈してくれた。
しばらくして、お客さんが帰ってくと、大将が言った。
「景気付けに何か飲むかい?」
「……じゃあ、鰭(ひれ)酒。」
峠くんが出してくれたアンキモと一緒に香ばしい日本酒を楽しんでて、ふと思い出した。
「あの、峠くんが毎日通ってる芸能人て、誰ですか?私たち、芸能界に疎くて。」
そう聞くと、大将は何とも言えない変な表情になった。
「……あいつ、知らないのか。なんだ、それ。あちらのマネージャーさんが、あいつはミーハーじゃないって喜んでたけど、そもそも興味ないんだな。うるさくて派手なバンドだよ。IDEA(イデア)とかいうバンドの一条 暎(はゆる)。」
あ~~~~~~!
さすがに私も知ってるレベルの有名人じゃないか。
なるほど、金髪で長髪の男だ。
確か、今、耽美なCMに出てる。
「まあでも、それぐらいのほうがいいな。適役だ。」
ご満悦な大将に、峠くんが話しかけた。
「大将。相談が。あちらのお嬢さん、妊娠したそうです。妊婦さんの料理って、どうしたらいいですか?受験生向けメニューのまんまだと、まずいですか?」
大将は、口をあんぐり開けて驚いた。
「受験生のお嬢さん、できちまったのか!」
峠くんは苦笑してうなずいた。
いつの間にか、峠くんが上総んと直接やり取りしてた。
「いいけど。美子さん、忙しいのかな?」
無言で峠くんは携帯を操作して、しばらくしてから言った。
「このところ体調が悪いらしくて病院に行ったみたい。……あ……上総の慕ってた祇園のお茶屋の女将、亡くなったんだって。上総が舞台で動けないから、美子さんが代わりに京都に日参してたらしい。それで体調崩したって。」
え?
祇園のお母さん……亡くなったの?
先月、お会いできなかったのって、もう具合が悪かったのかしら。
うわ……ショック。
本気で落ち込んでく私を、峠くんは黙って抱きとめてくれた。
お会いしたかったな。
せめて葬儀にはうかがいたかった。
でも……上総んと別れた今、私は完全に部外者。
お母さんも上総んも、ケジメをつけたのだろう。
悲しいけれど、仕方ないのかもしれない。
「素敵なヒトだったの。私、大好きだったの。」
つぶやくようにそう言った。
「……うん。今度京都に行ったら、お墓参りさせてもらおうか。」
期待に応えられなかったことを墓前で謝らないと、な。
お母さんからもらった、過分な愛情と優しさを思い出して、また泣いた。
夜。
峠くんは、芸能人宅から直接、割烹のバイトに入った。
私は22時頃にうかがった。
お店のドアに貸切と書いた紙が貼られていた。
店内にはまだ他のお客さんもいたけれど、大将に帰るように促されていた。
「こんばんは。」
静かめにそう挨拶して、カウンターの端に座った。
「いらっしゃい。久しぶり。」
大将にそう言われて、慌てて頭をぺこりと下げた。
峠くんも奥からちょっと顔を出して会釈してくれた。
しばらくして、お客さんが帰ってくと、大将が言った。
「景気付けに何か飲むかい?」
「……じゃあ、鰭(ひれ)酒。」
峠くんが出してくれたアンキモと一緒に香ばしい日本酒を楽しんでて、ふと思い出した。
「あの、峠くんが毎日通ってる芸能人て、誰ですか?私たち、芸能界に疎くて。」
そう聞くと、大将は何とも言えない変な表情になった。
「……あいつ、知らないのか。なんだ、それ。あちらのマネージャーさんが、あいつはミーハーじゃないって喜んでたけど、そもそも興味ないんだな。うるさくて派手なバンドだよ。IDEA(イデア)とかいうバンドの一条 暎(はゆる)。」
あ~~~~~~!
さすがに私も知ってるレベルの有名人じゃないか。
なるほど、金髪で長髪の男だ。
確か、今、耽美なCMに出てる。
「まあでも、それぐらいのほうがいいな。適役だ。」
ご満悦な大将に、峠くんが話しかけた。
「大将。相談が。あちらのお嬢さん、妊娠したそうです。妊婦さんの料理って、どうしたらいいですか?受験生向けメニューのまんまだと、まずいですか?」
大将は、口をあんぐり開けて驚いた。
「受験生のお嬢さん、できちまったのか!」
峠くんは苦笑してうなずいた。



