たぶん上総(かずさ)んも不安だったのだろう。
どんなに手を尽くしても表情が戻らなかった私が、加倉と峠くんに逢っただけで治ったことは、やはり相当ショックだったらしい。
でも、それがきっかけで私が元に戻るのなら、と無理矢理自分を納得させたようだ。
実際、私は治ったような気がしていた。
山崎医師も含めて、周囲のヒトたちからは「完治した」と思われていた。
だから、上総んに指摘されるまで気づかなかった。
私が、上総んに触れられると人形のように硬直してしまっていることに。
無抵抗だけど無表情。
言葉もない。
何とか反応させたくて、上総んはますます技巧を凝らして私を抱いた。
自分にしがみついて、声をあげて、求める私に、かつての仲睦まじかった日々を取り戻したかったのだろう。
でも私は……まるで客を取る遊女のように……ただ、上総んが満足して通り過ぎてくれるのを待っていた。
嫌じゃないし、拒絶することもなかったし、ハッキリ言って気持ちよかったけれど、心は動かなかった。
ただ、上総んに抱かれた翌日は、峠くんに逢った瞬間、勝手に涙が滂沱した。
つまり、ほぼ毎日だ。
これ見よがしに付けられた上総んの唇の跡を峠くんに見られたくなくて、とても峠くんに抱いて慰めてもらうことはできなかた。
そもそもこんな状態で、峠くんに逢ってることも申し訳なかった。
でも峠くんにしか泣けなくなってしまった私には、唯一の心の解放場所。
じっと我慢して、私が泣き止むまで、ただ黙って抱きしめてくれる峠くんの存在は、私にとって、ますますかけがえのないものとなった。
「顔見世期間中は、一緒に京都に来てほしい。」
出発する前の週まで、上総んは私にそうお願いした。
今、峠くんに会えなくなることが私にどんな破綻をもたらすのかは、火を見るよりも明らかだ。
当然のように、山崎医師からドクターストップがかかった。
……引き留めてもらえて、心から安堵した。
でも、上総んは諦めきれなかったようだ。
週末毎に逢いに来るように、と、新幹線のチケットを準備された。
しかも、私が断れないように会食のセッティングをしているらしい。
気が重い。
どんな顔して、上総んの関係者に逢えばいいんだろう。
まあ、松尾先生に会えるのは、素直に楽しみだ。
今のところ舞台の上総んは順調なので、私が怒られることはないだろう。
……だからと言って、褒めてもらえる要素もないけど。
峠くんのことをわかってくれてる松尾先生なら、何かいいアドバイスをくれるかもしれない。
ほんの少し楽しみもできて、私は浮上した。
そんな気分も打ち砕かれたのは、出発前夜。
いつものように、人形の私を女に昇華させた後、上総んは何やら恐ろしい物を出してきた。
黒い革の太いベルト?
T字帯のような……まさか……いわゆる、貞操帯!?
「いや……」
思わず、起き上がって、後ずさりした。
「大丈夫。痛くないから。ね。コレ、付けて。」
「いや!絶対、嫌!」
恐怖で身体が震えた。
「怖がらなくていいから。SMグッズとかじゃないし、拘束具でもないし。学美を守る物だから。」
そう言われても、私はぶるぶると首を横に振り続けた。
どんなに手を尽くしても表情が戻らなかった私が、加倉と峠くんに逢っただけで治ったことは、やはり相当ショックだったらしい。
でも、それがきっかけで私が元に戻るのなら、と無理矢理自分を納得させたようだ。
実際、私は治ったような気がしていた。
山崎医師も含めて、周囲のヒトたちからは「完治した」と思われていた。
だから、上総んに指摘されるまで気づかなかった。
私が、上総んに触れられると人形のように硬直してしまっていることに。
無抵抗だけど無表情。
言葉もない。
何とか反応させたくて、上総んはますます技巧を凝らして私を抱いた。
自分にしがみついて、声をあげて、求める私に、かつての仲睦まじかった日々を取り戻したかったのだろう。
でも私は……まるで客を取る遊女のように……ただ、上総んが満足して通り過ぎてくれるのを待っていた。
嫌じゃないし、拒絶することもなかったし、ハッキリ言って気持ちよかったけれど、心は動かなかった。
ただ、上総んに抱かれた翌日は、峠くんに逢った瞬間、勝手に涙が滂沱した。
つまり、ほぼ毎日だ。
これ見よがしに付けられた上総んの唇の跡を峠くんに見られたくなくて、とても峠くんに抱いて慰めてもらうことはできなかた。
そもそもこんな状態で、峠くんに逢ってることも申し訳なかった。
でも峠くんにしか泣けなくなってしまった私には、唯一の心の解放場所。
じっと我慢して、私が泣き止むまで、ただ黙って抱きしめてくれる峠くんの存在は、私にとって、ますますかけがえのないものとなった。
「顔見世期間中は、一緒に京都に来てほしい。」
出発する前の週まで、上総んは私にそうお願いした。
今、峠くんに会えなくなることが私にどんな破綻をもたらすのかは、火を見るよりも明らかだ。
当然のように、山崎医師からドクターストップがかかった。
……引き留めてもらえて、心から安堵した。
でも、上総んは諦めきれなかったようだ。
週末毎に逢いに来るように、と、新幹線のチケットを準備された。
しかも、私が断れないように会食のセッティングをしているらしい。
気が重い。
どんな顔して、上総んの関係者に逢えばいいんだろう。
まあ、松尾先生に会えるのは、素直に楽しみだ。
今のところ舞台の上総んは順調なので、私が怒られることはないだろう。
……だからと言って、褒めてもらえる要素もないけど。
峠くんのことをわかってくれてる松尾先生なら、何かいいアドバイスをくれるかもしれない。
ほんの少し楽しみもできて、私は浮上した。
そんな気分も打ち砕かれたのは、出発前夜。
いつものように、人形の私を女に昇華させた後、上総んは何やら恐ろしい物を出してきた。
黒い革の太いベルト?
T字帯のような……まさか……いわゆる、貞操帯!?
「いや……」
思わず、起き上がって、後ずさりした。
「大丈夫。痛くないから。ね。コレ、付けて。」
「いや!絶対、嫌!」
恐怖で身体が震えた。
「怖がらなくていいから。SMグッズとかじゃないし、拘束具でもないし。学美を守る物だから。」
そう言われても、私はぶるぶると首を横に振り続けた。



