ほとんどパラダイス

「こんにちは~。あれ?紫原さん、元気ない?」
ものすごく久しぶりに、美子さんが研究室に遊びに来てくれた。

「身体は普通に元気なんですけどね。元気なさそうですか?」
「うん。うん?もしかして!ちょっと、池尻さん!業績で敵わないからって、しょーもないイジメとかしてないでしょうねえ?」

突然美子さんにそう言われた池尻嬢は、目を三角にして立ち上がった。
「はあっ!?何で、私が!」

「美子さん、やめてください。ちゃんと仲良くしてくださってますから。……池尻さん、すみません。」
慌ててそう取りなした。

いや、美子さんの気持ちはありがたいんだけどさ、この場合はむしろ、ありがた迷惑だろう。
美子さんは、イイヒトだけど、相変わらず、天然で人騒がせなままのようだ。
職場で、周囲のかたがたとちゃんとやれてらっしゃるんだろうか。

池尻嬢は、私をちょっと睨んでから椅子に座り直し、本を読んで聞き耳を立てていた。

「ほんと、どうしたの?表情が、ちょっと、違うみたい。」
美子さんにそう言われて、困った。

「そうですか……上総んにも無表情だって言われるんですよ。顔面神経麻痺とか強皮症かな。いっぺん病院行かないといけませんね。」
「うん。パーキンソン病とかバセドー病の可能性もあるよ?早めにね。ね~、それより、飲みに行かない?ちょっと、聞いてよ~~~。」

今、私に病院に行くように言ったその口でお酒を勧める美子さん。
さすがだわ。
憎めない可愛いヒト。

「ビールありますよ。ココではまずい、かな。公園行きますか?」
美子さんは、ニッコリ笑ってうなずいた。

2人で遅咲きの桜の散るのを眺めながら、缶ビールで乾杯した。
「お仕事どうですか?通勤時間かかって大変そうでしたけど、慣れはりました?」
そう聞くと、美子さんはあっさり言った。
「あ、辞めちゃった!3月末で。今、家事手伝い。」

「え?何で?」
たった1年で辞めるにはもったいないような好条件だったはず。

美子さんはビールを煽ってから、缶を握る手に力を込めた……相当、お怒りらしい。
「田舎過ぎるのよ!感覚が古いの!私の服装とか髪型とか、イチイチやかましく注意するの!1年間地獄だったわ……」

「服……髪……中学生みたいですね。」
てか、それで辞めるのか。
すごいな。
恋愛とか不倫がこじれて辞めなければいいとは心配してたけど、私の想像の斜め上を行っていたな。
さすがだわ。

「でしょ!?レベルが低すぎるのよ!だっさい作業着なんか支給されても、絶対着たくないし!ほら、先月、朝の情報番組で紹介された時にね、作業着を着ろって事務長に言われてね、館長に直訴して私服スーツで出させてもらったの。あれからよ。館長と不倫してるって噂されて、くやしくてくやしくて、」

あ~、確か連絡をもらって、録画して見た。
でも、あの時の美子さんの格好は……学芸員というよりは皇室ファッションのような、パステルカラーのワンピースと共布のボレロタイプのジャケットだったような……。

事務長に苦言を呈されても仕方がない気もする。