「紫原、どうした?身体の調子でも悪いのか?」
ゼミの後、野田教授に呼び出された。
「いえ?なんか変でしたか?」
「いや、最近ずいぶんおとなしいから。もっと、指摘してくれていいんだぞ?」
そう言われて、ちょっと笑ってしまった。
「以前、真逆なこと言われた記憶があるんですけど。」
「そうか?そうかもな。あの時は、加倉もいたからな。お前らのレベルに他の奴がついて行けてなかったから。」
今は、私だけが異端児、なのか。
「ああ、峠から向こうの紀要に報告書を書いていいかって連絡があったぞ。律儀な奴だよな。」
野田教授はちょっとうれしそうにそう言った。
いきなり出てきた峠くんの名前に、ドキッとした。
「報告書……。修復の?」
「いや、修復課程で、顔料とか、筆致がどうのとか……イロイロ今後の研究に活かせそうな点があるらしい。俺の後輩も感心してた。峠は、学芸員に向いてそうだな。」
胸が熱くなる。
「そうですね。優秀なだけじゃなくて、気も利くし、親切だし。」
「ああ。仕事だけでも大変だろうに、自分の研究とボランティアまでやってるらしい。」
ボランティア?
「峠くん、らしいですね。向こうでもモテモテなんでしょうね。老若男女に。」
何気なくそう言ったけれど、少し胸が痛んだ。
イイヒトできたかな。
泣きそう。
実際、私は気が抜けたように生きていた。
自分の研究は手抜きせずやってるつもりだし、常に論文に取り組んでいる。
でも、それ以外のことに対して、あまりにも無感動で無表情らしい。
最初にそう指摘したのは、上総(かずさ)んだった。
「学美。病院、行こうか。」
情事の後の心地いいけだるさに浸っていると、突然そう言われて驚いた。
「何?しこりか何かあった?」
「いや、身体じゃなくて。……気づいてない、か。」
意味がわからなくて、黙って首を傾げて見せた。
「いつからか、正確にはわからないんだけど……いや、もう半年ぐらい前から違和感はあったんだけど、単に俺に対して怒ってるのかと思ってた。でも、会話とか普通だし、こうして抱いても嫌がらないし。」
確かに、怒ってない。
「嫌なわけない。気持ちいいもん。上総んを独り占めできる貴重な時間だし。」
そう言いながら、すりっと上総んの胸に頬をすりつけてしがみついた。
でも上総んは顔を歪めて、泣きそうな顔になった。
「ごめん。やっぱり俺のせいか。いっぺん失った信用って戻すの、難しい。ほんとに、もう、絶対ないから。学美だけだから。ねえ、安心して。」
……ため息がこぼれた。
聞きたくない。
私の信用がどうのこうのって……どうでもいい。
どうせ後からボロボロばれてくんだから、無意味な約束なんかしていらない。
めんどくさい。
「うん。ありがと。」
心が全くこもらない返事に、お互い傷ついて、また抱き合った。
求め合ってる瞬間だけ、夢中になれた。
ゼミの後、野田教授に呼び出された。
「いえ?なんか変でしたか?」
「いや、最近ずいぶんおとなしいから。もっと、指摘してくれていいんだぞ?」
そう言われて、ちょっと笑ってしまった。
「以前、真逆なこと言われた記憶があるんですけど。」
「そうか?そうかもな。あの時は、加倉もいたからな。お前らのレベルに他の奴がついて行けてなかったから。」
今は、私だけが異端児、なのか。
「ああ、峠から向こうの紀要に報告書を書いていいかって連絡があったぞ。律儀な奴だよな。」
野田教授はちょっとうれしそうにそう言った。
いきなり出てきた峠くんの名前に、ドキッとした。
「報告書……。修復の?」
「いや、修復課程で、顔料とか、筆致がどうのとか……イロイロ今後の研究に活かせそうな点があるらしい。俺の後輩も感心してた。峠は、学芸員に向いてそうだな。」
胸が熱くなる。
「そうですね。優秀なだけじゃなくて、気も利くし、親切だし。」
「ああ。仕事だけでも大変だろうに、自分の研究とボランティアまでやってるらしい。」
ボランティア?
「峠くん、らしいですね。向こうでもモテモテなんでしょうね。老若男女に。」
何気なくそう言ったけれど、少し胸が痛んだ。
イイヒトできたかな。
泣きそう。
実際、私は気が抜けたように生きていた。
自分の研究は手抜きせずやってるつもりだし、常に論文に取り組んでいる。
でも、それ以外のことに対して、あまりにも無感動で無表情らしい。
最初にそう指摘したのは、上総(かずさ)んだった。
「学美。病院、行こうか。」
情事の後の心地いいけだるさに浸っていると、突然そう言われて驚いた。
「何?しこりか何かあった?」
「いや、身体じゃなくて。……気づいてない、か。」
意味がわからなくて、黙って首を傾げて見せた。
「いつからか、正確にはわからないんだけど……いや、もう半年ぐらい前から違和感はあったんだけど、単に俺に対して怒ってるのかと思ってた。でも、会話とか普通だし、こうして抱いても嫌がらないし。」
確かに、怒ってない。
「嫌なわけない。気持ちいいもん。上総んを独り占めできる貴重な時間だし。」
そう言いながら、すりっと上総んの胸に頬をすりつけてしがみついた。
でも上総んは顔を歪めて、泣きそうな顔になった。
「ごめん。やっぱり俺のせいか。いっぺん失った信用って戻すの、難しい。ほんとに、もう、絶対ないから。学美だけだから。ねえ、安心して。」
……ため息がこぼれた。
聞きたくない。
私の信用がどうのこうのって……どうでもいい。
どうせ後からボロボロばれてくんだから、無意味な約束なんかしていらない。
めんどくさい。
「うん。ありがと。」
心が全くこもらない返事に、お互い傷ついて、また抱き合った。
求め合ってる瞬間だけ、夢中になれた。



