しばらく横になって何となく落ち着いてから話しかけた。
「東北の話って、前に、加倉が言ってなかったっけ?」
興味がないのですっかり忘れてたけど、ゴールデンウィークにボランティアだかバイトだかに行くとか行かないとか……そんな話があった気がする。
「ああ。結局俺も行ってねーけど。峠がお盆に行ったんだ。な?」
加倉にそう振られて、峠くんはうなずいた。
「バイトのつもりで軽い気持ちで行ったけど、惨状見たらほっとけなくて。」
峠くんはそう言いながら、自分の携帯に入っていた画像を見せてくれた。
……元は美しかったのだろうと思われる掛軸や扁額が泥でボコボコに歪み変色していた。
「こんなのが大量に放置されてて、見てられなかった。」
なるほど、美を愛する峠くんらしいと言えばらしいんだけど……。
「時代は違うけど、日本美術の聖地もあるし。無駄にはならないと思う。直接研究には反映させられないだろうけど、いってきます。」
「そのまま就職できるかもしれないし、イイ話だとは思うけどな。」
「それはどうだろ。就職は、可能なら京都がいいんだけど。」
峠くんと加倉の会話を聞きながら、私は目を閉じた。
何か、ぐるぐるしてきた。
また妊娠ってことはないだろうけど……ないよな……ないはず……えーと……
「加倉。しーっ。まなさん、眠ったみたい。」
峠くんが小声でそう言ったのが聞こえた。
いや、起きてるけど。
ただ、目を開けるのも、話すのも大儀に感じた。
「ワガママな奴。こいつ、峠がいなくなるのが嫌でふて寝してんだよ。」
その通りかもしれない。
「そんなわけないだろ。でも、俺に要らん気をつかわせるのもかわいそうだし。」
少しの間があって峠くんが言った。
「これでいいんだ。」
峠くんの声が、優しくて……とにかく優しくて……泣きそうになった。
いつの間にか本当に寝てたらしい。
目覚めると、峠くんの姿はなかった。
てか、峠くんの荷物もなくなってた。
……マジでいなくなっちゃうの?
「ふっ……え……」
泣きじゃくりはじめたところで、背後からシビア~な声が響いた。
「泣くな、馬鹿。お前のせい、とは言わねーけど、どうしようもねーだろーが。」
慌てて涙を拭って、振り返った。
「泣いてません!てか、わかってるわよ!私が悪い!あー、むかつく!」
ちょうど私のすぐ後ろの書架の最下段の辞書を見ていたらしく、しゃがみこんでいた加倉を睨んだ。
「別に責めちゃいねーよ。でも、泣くな。よかれと思って決めたんだろ。お前も。峠も。」
私は黙ってうなずいた。
「じゃ、堂々としてろ。変に卑屈になるのは、紫原らしくねーし、気持ち悪いわ。」
そう言われて、ちょっと楽になった。
「わかった。ありがと。」
掛けてくれてたタオルケットを畳んでると、加倉が言った。
「上総、持ち直したって?」
「うん。たぶん、大丈夫。」
「お前は?」
そう聞かれてちょっと困ったけれども、無理にほほ笑んだ。
「たぶん、大丈夫。」
加倉はニコリともしなかった。
「意外と、お前、峠のこと、マジで好きだったのな。」
突然真面目くさってそう言われて、心臓が止まるかと思った。
「東北の話って、前に、加倉が言ってなかったっけ?」
興味がないのですっかり忘れてたけど、ゴールデンウィークにボランティアだかバイトだかに行くとか行かないとか……そんな話があった気がする。
「ああ。結局俺も行ってねーけど。峠がお盆に行ったんだ。な?」
加倉にそう振られて、峠くんはうなずいた。
「バイトのつもりで軽い気持ちで行ったけど、惨状見たらほっとけなくて。」
峠くんはそう言いながら、自分の携帯に入っていた画像を見せてくれた。
……元は美しかったのだろうと思われる掛軸や扁額が泥でボコボコに歪み変色していた。
「こんなのが大量に放置されてて、見てられなかった。」
なるほど、美を愛する峠くんらしいと言えばらしいんだけど……。
「時代は違うけど、日本美術の聖地もあるし。無駄にはならないと思う。直接研究には反映させられないだろうけど、いってきます。」
「そのまま就職できるかもしれないし、イイ話だとは思うけどな。」
「それはどうだろ。就職は、可能なら京都がいいんだけど。」
峠くんと加倉の会話を聞きながら、私は目を閉じた。
何か、ぐるぐるしてきた。
また妊娠ってことはないだろうけど……ないよな……ないはず……えーと……
「加倉。しーっ。まなさん、眠ったみたい。」
峠くんが小声でそう言ったのが聞こえた。
いや、起きてるけど。
ただ、目を開けるのも、話すのも大儀に感じた。
「ワガママな奴。こいつ、峠がいなくなるのが嫌でふて寝してんだよ。」
その通りかもしれない。
「そんなわけないだろ。でも、俺に要らん気をつかわせるのもかわいそうだし。」
少しの間があって峠くんが言った。
「これでいいんだ。」
峠くんの声が、優しくて……とにかく優しくて……泣きそうになった。
いつの間にか本当に寝てたらしい。
目覚めると、峠くんの姿はなかった。
てか、峠くんの荷物もなくなってた。
……マジでいなくなっちゃうの?
「ふっ……え……」
泣きじゃくりはじめたところで、背後からシビア~な声が響いた。
「泣くな、馬鹿。お前のせい、とは言わねーけど、どうしようもねーだろーが。」
慌てて涙を拭って、振り返った。
「泣いてません!てか、わかってるわよ!私が悪い!あー、むかつく!」
ちょうど私のすぐ後ろの書架の最下段の辞書を見ていたらしく、しゃがみこんでいた加倉を睨んだ。
「別に責めちゃいねーよ。でも、泣くな。よかれと思って決めたんだろ。お前も。峠も。」
私は黙ってうなずいた。
「じゃ、堂々としてろ。変に卑屈になるのは、紫原らしくねーし、気持ち悪いわ。」
そう言われて、ちょっと楽になった。
「わかった。ありがと。」
掛けてくれてたタオルケットを畳んでると、加倉が言った。
「上総、持ち直したって?」
「うん。たぶん、大丈夫。」
「お前は?」
そう聞かれてちょっと困ったけれども、無理にほほ笑んだ。
「たぶん、大丈夫。」
加倉はニコリともしなかった。
「意外と、お前、峠のこと、マジで好きだったのな。」
突然真面目くさってそう言われて、心臓が止まるかと思った。



