「ああ、そうそう。

会社では俺たちが同居をしていることも、偽装婚約のことは秘密な?

あくまでもこの関係は、ばあちゃんの前で…だからな?」

そう言って自分の前に人差し指を出した杉下くんに、
「うん、わかってるよ」

私は首を縦に振ってうなずいた。

この時点で、私が杉下くんに抱いていた気持ちに気づくことができたらよかったのかも知れない。

一時的だとは言え住むところが見つかって舞いあがっていたことと彼に同情してしまったことが、私の判断力を鈍らせていたのかも知れない。

――思わず交わしてしまった彼との偽りの婚約関係が、後に自分が苦しむことになるとは思ってもみなかった。