オトナチック

私がたった今走ってきた場所から、足音が聞こえてくることはなかった。

そこから杉下くんの姿が見えることもなかった。

仕方ないよね…。

あんなことを言っちゃったんだもん…。

勢いに任せてしまったとは言え、彼にあんなことを言ってしまった。

「契約のうえでの、関係だったじゃない…」

呟いた瞬間、視界がぼやけた。

顔を隠すように両手でおおうと、その場にうずくまるようにしてしゃがんだ。

杉下くんに気持ちを言ってしまった。

好きだと、伝えてしまった。

契約のうえでの婚約者だったから、この気持ちは黙っているつもりだった。

なのに私はそれを破って、彼に気持ちを伝えてしまった。

気持ちを消したかった。

気持ちを隠すつもりだった。

だけど…いつの間にか芽生えてしまったこの気持ちの消し方を、私は知らなかった。