まるで、恋をしているみたいだと思った。

「――恋?」

そう呟いた後、私は立ち止まった。

立ち止まった私に気づいていないと言うように、杉下くんは前を歩いている。

――私、杉下くんのことが好きなの…?

そう思ったけど、すぐに首を横に振って否定をした。

危ないところを助けてもらったから、困ったことがあったら相談するようにって言われたから、ちょっと有頂天になっているのかも知れない。

だけど…杉下くんの意外な一面や会社では見せない顔を見るたびに、彼のことをもっと知りたいって思ってる。

でも自分たちの関係を考えると、私の心が痛んだ。

婚約者とは言え、私たちの関係は偽りだ。

杉下くんのおばあさんのために、私は彼の婚約者を演じているのだ。

偽り――形だけで結ばれているこの関係を、私の勝手な気持ちで壊す訳にはいかない。

そう自分に言い聞かせると、私は杉下くんの後を追ってオフィスへと戻った。