言葉をなくした私を一瞥したあと、ゆうひ工場長は無言でお箸を進めた。

 ぱくぱくと良い食べっぷり。


「あー、美味しかった。じゃあ今日もネカフェに戻るかなぁ。手足伸ばして寝たいけど、贅沢言っちゃあ駄目だよね」

 くいっとコップの水を飲み干して、

「ね?」

 と同意を求めてくる。
 はいそうですね、ネカフェで縮こまって寝てくださいとは、さすがに言いづらい。

 それにしても、いくら家出してるからといっても、『スウィンプト・コーポレーション』の社長のご子息が、ネカフェって……

「ホテルに泊まればいいんじゃないですか?」

 別に一泊うん十万もするスイートルームじゃなくても、普通のビジネスホテルで。

「毎日? 今後の結婚生活のことを考えると、そんな散財しちゃ悪いかなーって。浅沼さんとのことを考えて、節約してるんだけど」

 屈託のない笑みを向けられて、戸惑った。

 なんて殊勝な旦那さんだと、感激できたら良いのでしょうけど。
 あいにく、私たちは契約婚約だ。

 ふと思った。

「……契約婚約って響き……、翻訳こんにゃくに似てますよね」

「え?」