あたしには顔を上げなくてもわかる。



今目の前にあるのが大きなカバンを右肩に背負ってあの切れ長の鋭い目で呆れたようにあたしを見下ろしているあいつの姿だってことは。



あたしはなにも答えずにうつむいたままただ、前に立っている奴がどこかへ行くのを待った。



でもどうやら動く気はないらしい。



そして、

「羽奏(わかな)、顔、あげろよ。」

と一言だけ、言い放った。