計画的俺様上司の機密事項

「連れてきたぞ」


後ろからシンちゃんが声をかけると、この階に用事の人やいつもの部のメンバーが一斉にこちらを見ていた。


「有沢~」


わたしの顔を見るなり、いつもの席で弱気な声を発しながら手を振る渡瀬先輩の姿があった。


「渡瀬先輩」


「ごめんね。実は、またデータがおかしくってさ」


「え、どうしたんですか」


そういって、パソコン画面をチェックすると、ホームページにあげる前の文字が一部抜けていたり、文字の色や太さが異なっていた。


「有沢が作ってくれたマニュアルでやってみたんだけど、おかしくなっちゃって」


「直しますね。ここをこうすれば直りますから」


入力し直して確認するとホームページにあげてあったものと変わらない文字になった。


「そうやって変えるんだ。わかんなかったよ。ごめんねえ」


「いいんですよ。お役に立てられてよかったです」


「このフロアが広ければ、有沢たちもそのまま入ってウチらと合同で仕事をやる予定だったんだけどさ」


「……そうだったんですか」


「結城部長、インターネット事業部の部長も兼任するらしいからけっこう忙しくなるみたいね」


「有沢さんも兼任なのよ」


うふふと柔らかく笑いながら真鍋先輩がやってきた。


「真鍋先輩、どういうことでしょうか」


「インターネット事業部、ホープの有沢さんが抜けて、今、手薄でしょ。これ以上人材いなくなったら困るだろうって。部長の判断だって」


確かに他の社員もいるけれど、渡瀬先輩と真鍋先輩と一緒に編集の主要メンバーに入れてもらっていたから、抜けてしまったらこちらの仕事にも支障が出る。

他に総務みたいなところから引っ張ってこれた気がするんだけど。

人事には文句言えないか。


「部長って。聞いてないですって」


「有沢さん、そういうことだからこれからもよろしく頼むわね」


ぽんぽんと綺麗な手で真鍋先輩はわたしの肩を叩いた。