計画的俺様上司の機密事項

「隣の部屋のことなんだけど、ドアノブが壊れてたの、知ってた?」


「なあに、その話」


ふわあ、とあくびをしながら野上くんは退屈そうに話した。


「だって、ここに引っ越す前に総務に修理を申請してたって話。野上くん、知ってたはずだよね」


「僕の管轄じゃないから知らなかったけど」


野上くんはきっぱりと言い切っていた。

その清々しさが逆にこちらがまるで嘘をついているような気持ちにさせる。


「野上くん、どうかしたの? 最近、態度がおかしいっていうか」


野上くんが席を立ち、わたしの座る席に近づいた。


「そんなに僕が気になる?」


「そんなことは、ないけど。でも、同期としていつもの野上くんとは違うなって」


「僕のどこを判断してそう見えるんだろうね」


「だって、野上くんは研修のときは周りのこと考えてくれてたし、研修が終わったあとでも先輩や上司の言葉をしっかり聞いて行動してるっていう話を聞いてたし」


野上くんはかがみこんで、わたしの顔に自分の顔を近づけた。

わたしは少しでも野上くんと遠ざかろうと椅子を横に引こうとする。

すると、野上くんは靴で椅子のコロを抑え、椅子の背もたれをつかんだ。


「僕のこと、想ってくれてたんだね」


「想うっていうか、尊敬してたのよ。頭もいいし、やさしいし」


「尊敬か。少しでも有沢さんに気にしてもらえるなんて光栄だな」


あんなにさわやかで誰にでもやさしく笑みをかえしていた野上くんが消えている。

そこにいるのは、容姿端麗な顔をしただけの不快感のある男だ。


「僕は有沢さんにとって蚊帳の外の人間じゃ、なくなるけど。あんまり近づきすぎるとセクハラになっちゃうか。今日のところはやめとくよ」


そういうと、野上くんは不気味にクスクスと笑い、コロを抑えていた足と背もたれにあった手をのけた。


「ただいま戻りました」


わたしと野上くんを交互に睨みをきかせながら、シンちゃんが部屋にやってきた。