計画的俺様上司の機密事項

部屋を出て、階段を降りる前に頭をさげる。


「結城部長、ありがとうございました」


「同然のことをしたまでだ」


シンちゃんは他に人がいないことを見計らって、いつもの安心できる笑顔をむけてくれた。


「しっかし、姑息だな」


階段を下りながら、シンちゃんはつぶやく。

わたしは踊り場で足をとめたのでシンちゃんもその場で立ち止まった。


「しかし、なんだって目をつけられる必要がある。総務は関係ないぞ」


「……そうなんですけど、わたしにもまったく心当たりなくて」


「まあ、今回のことで総務も落ち着くだろう」


「それより」


「ん? 何?」


「あの紙袋は一体、どこにあったんですか? わたしのタイムカードが入っていたなんて」


「教えてほしいのか?」


踊り場までシンちゃんは階段をあがり、右手の人差し指にわたしの唇を押し当てる。

指先に薄くピンク色のグロスがつき、その指先を自分の唇にあてた。


「キスの代わりだ。ここじゃあ安心してキスできないからな。今回は特別にヒントを教えてやるよ。ある情報通だよ」


「情報通って……」


「タイムレコーダーがあるところの天井に近い一番上のキャビネットの奥に隠すようにあったんだってさ。昔もそこで発見されたようだ。確かあのキャビネットは総務の管轄じゃなかったかな。おっと、これ以上は言えないってことで。業務に戻るか」


情報通って一体誰なの? わたしのタイムカードってどこにあったっていうの。

シンちゃんとわたしが部屋に戻ると、野上くんが心配そうな顔つきでわたしをみつめてきた。


「有沢さん、大丈夫だった?」


「う、うん。なんとか解決できた」


それもこれもシンちゃんのおかげだ。きっといなかったら傍若無人な上条さんのいいなりになっていたところだったから。

自分の仕事が進まないまま、9階へと向かう。

掃除機を持ちながら、ふう、とため息が漏れた。

ちょうど息抜きにいいのかもしれない。

珍しく総務部長がやってきて、シンちゃんと対等に交渉するだなんて、すごいものを見せられた気がする。

あんなに堂々と冷静に物事をクリアにできるなんて、やっぱりシンちゃんにはかなわない、と感心しながら掃除をはじめた。