優しい胸に抱かれて


『あっ、灯台…』

『見えてきた? 緩やかなくせに結構しんどいんだよな、この道は』

そう言っておきながら平気そうな表情で踏み出す足取りは、へばっている私から見て軽やかそうに映った。


『主任、どこがですか。すごい余裕な顔してますけど…』

『このくらいは、まだまだ。柏木はきつそうだな?』

『はい、きついですよ。…運動不足ですね、ほんとに』

これが、クライアントのところや現場に出向く人と会社のデスクにかじりつくだけの人の違いなのだろうか。そうなると、私も早く外に出れるようにもっと頑張らないと。と、アスファルトを蹴りつける足に力が入る。

普段動かないわけではないが、動く範囲は狭いし電車通勤とはいえ、よく考えたら運動量となると大したことないことに気づく。全く息が切れていない彼の後を、不規則な呼吸をしながら着いていく。


『さすがにこの時期は誰もいないか。寒くない?』

『はい、歩いたから平気です』

『疲れるのはまだまだ。階段が残ってるぞ?』

へばる私にそう言い残し、待ち合わせ場所に遅れて駆け寄るかのように、二段飛ばしで階段を駆け上がっていった。

遅れて階段を上っていくと、全貌が明らかになる白と赤のツートンカラーのそれは、岬の先端で淋しくぽつんと佇んでいた。

崖の向こうには海が広がり、柵に寄りかかる彼はこの灯台みたいに淋しげに海を見下ろしていた。


『小学校の修学旅行だったかで、水族館来てさ、遠くに赤と白の建物が見えて。それが忘れられなっかったのか、免許取った後に初めてのドライブで、ふらっと来たってわけ。なんだか1人で淋しそうでさ、落ち込んだり滅入ったりしたら、ここに来たくなるんだ』

打ち付ける波の音と、ぽつりぽつりと独り言を呟くかのような彼の声が重なる。陽が傾きかけ、赤と白のラインに西日が反射し、より一層淋しさを漂わせた。


『16時か、まだちょっと早いな』

『…何がですか?』

『内緒』

見上げて疑問を投げかける私に、淋しそうに笑う。淋しそうに見えるのは夕影のせいなのか、わからない。