優しい胸に抱かれて


『どうも、天気がいいとドライブしたくなってさ。土日にかけて函館とか行ったり』

『そんな遠くまで行くんですか?』

目を大きくする私に悩ましそうな表情を浮かべ、残念そうにこう言った。

『まだ道東は行けてないんだよな。根室とかさ』

『根室…。ペーパードライバーの私でも遠いの知ってます。ちょっとドライブの域を越えちゃいます』

『あはは、そうかもな。夏に礼文まで行こうとしたんだけどさ、フェリーの時間が合わなくて断念したからリベンジしたいんだ』

根室とか礼文とか、ドライブじゃなくてそれは旅行だ。そう思ったけど言わなかった。想像したら楽しそうだったし、実際楽しいんだろうなと、彼を見てそう思ったから。


『島、行ってみたいです。フェリー…乗ったことないから』

『機会があれば連れてってやるよ』

『ほんとですか?』

『機会があればな? 期待はするなよ?』

主任と一緒なら楽しそうだと、ふと考えてみた。けれど、それは私を慰めるために言ってくれたんだって、そうしたら機会がないだろうし、期待もしない方がいい。


『はいっ。あ、でも。…行き着いた先でもナポリタンですか?』

『…ナポリタン、引きずり過ぎだろ』

『主任が言ったんですよ、ナポリタンばっか食ってるって』

『さすがにナポリタンばっかりじゃないよ。…その目は疑ってるな?』

ふっと笑って、半ば諦めた様子でこちらを見る。


『だって…』

『ほらな、ナポリタンしか食わない男、嫌だろ?』

『嫌ではないです。主任がナポリタンなら、私は違うもの食べます』

私がそう言うと、目を丸くして驚いた顔をしたかと思ったら、可笑しそうに笑い出す。

『あははっ、そうだな。うん、柏木のそういうとこ、いいと思う』

『え…? 何がですか?』

『何でもない。…少しは元気になったみたいだな』

『あ…、はい。主任のおかげです。あの…、そろそろ帰ります。主任の休日の邪魔になっちゃいますから…』

自分からそう告げたのに言った途端、楽しかった時間が終わってしまうんだと、急に淋しくなった。


『…そんな顔されたら帰せないだろ?』

いきなり指でおでこをはじかれて、痛みが走る。

『痛っ。主任…』

『スーツの他に外出用の着替えはあるのか?』

『え…、あ、はい。一応…』

『じゃあ、着替えて、出掛けるか?』

『どこにですか…?』

『内緒、着いてからのお楽しみ』

促されるまま、顔を洗って簡単に化粧を済ませ、着替えてリビングに顔を出せば、彼も私が昨晩汚したTシャツから着替えを終えていた。