次の瞬間、冷たい物が瞼に置かれて、びっくりして起き上がろうとした私を静止させたのは彼だった。
『冷たいっ…』
『ははっ、驚かすつもりはなかったんだけどさ。タオルしかなくて悪いな。それでいくらか腫れが引くかもしれないから乗せとくといいよ。冷たくて寒くない?』
『はい、大丈夫です』
『俺はあっちにいるから、まだ寝てろ』
『…もう少しだけ、一緒にいてください』
ここ、と、空いている自分の隣に腕を伸ばした。
『しょうがない。…少しだけな?』
『主任は…、どうしてそんなに優しいんですか?』
『優しい? 俺が?』
『はい。昨日、…主任が電話しろよ、って言ってくれなかったら、私…。きっと、ぐちゃぐちゃになりながら歩いて帰ってました』
『あの時、あそこで会った柏木が切なそうだったから、気づいたら声掛けてた。実はさ、後になって後悔したんだ、変なこと言っちゃったなってさ。だけど、頼って電話掛けてきてくれて、ちょっと嬉しかったんだ』
『…迷惑じゃなくて…ですか?』
『前に話したと思うけど、入ったばかりの頃。話が下手な癖に色々考え過ぎて、失敗続きでどうしたらいいかわからなくなって悩んでた時に、一人で悩むな、って。いつでもいい、休日だろうが、夜中でも朝でもいつでもいいから電話してこい。そう言われて、急に吹っ切れたんだ。あんなに一人で悩んでいたのは何だったのかってくらい、もやもやがすーってどっか行った』
『それ…、誰に言われたんですか…?』
私は解っていた。それが誰か解ったけれど、彼の口からその人の名前を聞きたかった。
『前川さん…』
聞いて確信を得ると、やっと理解できた。前川さんが慕われている理由。



