それまで、うんうんと黙って聞いてくれていた彼が、静かに投げかけた。
『…友達に話したことはなかったの?』
『…話せなかったです』
『何で?』
『…、そんな男、やめときなって、言われるから』
『何だ、自分でわかってんじゃん。俺が…、柏木の友達だとしたらそう言う』
真っ直ぐ突き刺さる視線が、悲しそうで今にも泣き出しそうな顔で私の頭を撫でる。いつも笑ってる彼にそんな顔をさせてしまっていると思ったら、目頭が熱くなる。
『誰にも、…言えなかった』
『うん…』
『誰にも、言えなくて。…駅まで走ったら終電がなくて、っ、主任の声が聞きたくなって、電話…、しちゃいましたっ…』
『大変良くできました。…でも、切るなよ。それと、1回で出なさい。一人で悩むのは柏木の悪い癖。ちゃんと柏木のこと見てたら、忙しいなんて理由にならない。言い訳にもならない。別れて正解』
頭に置かれた手が、何度も頭をよしよしと優しく撫でる。その度に涙が溢れ出て、また私は泣いた。
『…、主任の顔見たら、なっ、なんか、安心してっ…。な、泣いて、ごめん、なさい』
『俺が…、泣かしてるみたい、それ。って、今も泣いてるからな?』
撫でていた手は私の頭を支えながら、自分の胸に押し付けた。彼の胸の中は暖かくて、ずっとこうしていたいとさえ思った。
『貰い泣きしそう…』
囁かれた言葉に、ああ、だから悲しそうだったんだって。
私の頭を撫でている、眉毛が下がった彼の顔が浮かんだ。思い出したら、もっと涙が溢れた。



