休憩所には先客が居て、彼が窓の向こうをぼんやりと眺めていた。声を掛けていいのか、もしかしたら邪魔だろうかと、数秒悩んだ末に私は話し掛けた。
『えっと…。主任、コーヒーでいいですか?』
肩を僅かに持ち上げ、拍子抜けした彼が勢いよく体をこちらへと向けた。
『…あ、柏木か。ごめん、気づかなかった』
いつもの彼とは雰囲気が違ったからか違和感を覚え、妙によそよそしく緊張していた。
『いえ、…クリーム、入れていいですか?』
『ありがと。もう人のコーヒーの好みとか覚えたの?』
一笑してカップを受け取った彼は背を壁に預け、感心したように目を見開いた。
少し安心して、私は得意になっていつも持ち歩いているメモ帳を見せる。
『はい、なぽりで見て覚えました。猫舌の人がいれば、ホットじゃないとダメな人、お茶が嫌いな人がいれば、コーヒーが苦手な人もいて、最初はこんがらがってましたけど。畑山係長は甘党なので砂糖とミルクは二つ入れます。日下主任はブラック、どっちでもいいのが島野係長。あとは…』
『あはは、わかった。もういいって、俺まで覚えさせられてるみたいだ。それ見てもいい?』
『…どうぞ』
『あはは、前川さんは開始45分頃からウイスキーに切り替わるって、飲み会のことか。こんなことまで書いてるのか。へえ、みんなの使うシャープの芯の濃さや太さもしっかりだな?』
メモ帳をぱらぱらめくり、目を通していく彼は、『ちょっとしたうちの雑学だな』と、書かれている最後のページまでずっと顔に笑みが広がっていた。



