それから1ヶ月が経った10月下旬のある日。森田課長が辞表を出したと店舗デザイン事業部全体に噂が広まった。
不正があっただとか、女問題だとか、森田派と前川派の派閥争いだとか、とにかく上司の目を盗んではみんながひそひそと話し、何処から仕入れた零れ話に食いついた。
森田課長が失脚し、森田課長に付いていたほとんどの社員が連鎖反応のごとく辞めていった。
作業場入り口の傍らでは、1ヶ月近く姿を現さなかった前川さんと責任感の強い島野さんとが、予定表のホワイトボードの前でスケジュールを組み直ししていた。
『工藤、明日俺と一緒にプラザ6な。この騒動、試験の後でよかったな』
『…あと、打ち合わせが途中なのは…、コリアンの家か。佐々木、ピッツァ・ローネルの施工はいつ入れる?』
などと今後の予定を書いたり消したり、作業場を行ったり来たり忙しないやり取りに没頭していた。
重要な仕事は任されることのなかった以前までは、みんなが忙しく駆け回る光景をぼんやりと客観的に見ていた。
その私の席にはこんもりと山になった書類の束が積まれている。
忙しそうに駆け回る先輩方には申し訳ないけれど、私は嬉しかった。嬉しくてこっそりと、周囲に気づかれないように笑みを零した。
切りのいいところまで片づけたら、コーヒータイムと決めていた。ちょっとした御褒美みたいなもの。
『お前ら、喋ってばっかいるんじゃないぞ。仕事だ、仕事』
島野さんがリーダーシップを発揮し若手社員に注意する。そこまで大きな声を出す人ではないのに休憩所まではっきりと響きわたる、そのくらいフロアはガランとしていた。



