優しい胸に抱かれて


『…柏木? 受かったよ、俺も』

『えっ!』

その声に驚いて瞼を上げる。ぱっと開いた瞳に先ほどと変わらないみんなの呆れた表情が映る。 

『目を開けてないのが悪い』

と、島野さんから馬鹿にしたように笑われて、騙されたことに漸く気づく。

『良かったー。おめでとうございます! 日下主任もおめでとうございます!』

『…だから、ついでみたいに言うな』

『良かった!』

『何でお前がそんなに喜んでるんだ。二人ともまだ製図の試験が終わってないんだ、気抜くなよ。って4回受けた俺に言う資格ないけどな。…柏木、うるさいぞ!』

良かった、良かったと喜んでいると、うるさいと叱る島野さんが『てめえら、あっち行け』と、私をパーティションの中から追い出した。出されたのは私だけじゃなくて、彼もつまみ出されてしまった。

『ははっ、俺まで追い出された』

『…すみません、つい嬉しくて』

『それ、手。爪の痕付いちゃってるぞ?』

肩を落とした私は、そう言われて目線を下に向ける。左右の手の平は未だくっついたままだった。ゆっくり引き剥がすと、決して長くはない爪の痕が三日月の形で印されていた。


『あっ…』

『次の製図の時も祈っててくれるの?』

『はい! …あ、でも私が祈って落ちちゃったら、責任取れないですよ?』

『あはは。落ちたらその程度の実力ってことだろ。この前のこと気にしてんの?』

『頑張ってくださいなんて言ったから、良くなかったのかなって。次の日二人とも暗かったから…』

『あれは、出し尽くして気が抜けてただけだよ。試験のために2年弱やってきたことを無駄にしないようにって。お互いやり尽くして良くも悪くも学科はこれで終わったのかって。帰りは一言も喋んないでぐったり』

肩を竦ませ『だから、落ちても柏木のせいじゃないよ』って、優しい笑顔を見せる。

『じゃあ、…次も祈っていいですか?』

本当にいいのかと、おどおど不安そうに見上げた。


『頑張ってる柏木に頑張ってって言われたら、何だか頑張れそうな気がするよ』

『それって、私が主任に大丈夫って言われるのと一緒ですね』

『…何か違うだろ。それは、柏木がおろおろしてるから、だろ?』

『え? おろおろはしてますけど、どこが違うんですか? 大丈夫って言われたら何だか大丈夫なような気がしますよ?』

『…じゃあ、同じってことにしておくよ』

妥協とも取れる発言に、私は納得がいかなくて何が違うんだろうと首を捻る。思い立ったことを色々言葉にしてみたけれど『そうじゃない』と呆れられ、何が違うのかはこの時、結局分からずじまいだった。