その日の夜。金曜日ということもあってか、帰りが遅くなっても次の日は休み。作業場にはまだみんなが残っていた。
『工藤、日下。いよいよ日曜日だな。落ちるなよ』
『あんまりプレッシャー与えないでくださいよ。それでなくても緊張してるのに』
『心配するな、揃って受かるとは誰も思ってない。現に島野は4度目で合格だったんだ』
『前川課長、そこで俺を引き合いに出さなくてもいいじゃないですか』
『事実だろうが。まあ、二人とも家庭を持つ前に受かっておくべきだ。ああなりたくなければな』
『はいはい、どうせ俺くらいだ。4回も受けたのは』
先輩達の会話に耳に入ってきて、左隣の平っちに話しかける。
『ねえ、平っち。一級建築士の試験って難しいの?』
『仕事しながら勉強しなきゃいけないんだから、難しいんじゃないか? 合格率は1割。年に1回、学科が7月。製図の試験は10月。どっちも受からないといけないから。食う?』
と、貰ったチョコを口に入れる。平っちの机の引き出しは、一段丸ごとお菓子が詰められているのだから驚きだ。
『平っちも受けるの?』
『受けるだけはと思うんだけど、合コンの方が好きなんだよね、勉強より』
『平っちらしいね』
最初の3ヶ月は定時上がりだった新入社員の私たちは、先輩方と一緒に残業をすることが増えた。
彼と日下さんは、4年制の大学を経て実務経験2年以上で受験資格が得られる、一級建築士の試験を次の日曜日に控えていた。
1割しか受からないって、それだけ難しいってことなんだ。教科書や問題集を見せてもらったけれど知識がない私にはちんぷんかんぷんだった。
『工藤主任、試験頑張ってくださいね』
『柏木に頑張ってくださいとか言われると、落ちちゃいそうだな?』
『主任ひどいです。これでも応援してるんです』
『あはは、嘘だよ。ありがとう』
『日下主任も頑張ってくださいね』
『…工藤のついでみたいに言うな』
日下さんは額に皺を作り、露骨に面倒臭そうな声を出した。
別についでで言ったわけじゃないのに。と、首を斜めにしている私の後頭部に振りかかった厳つい声。



