優しい胸に抱かれて


2時間にも及ぶ会議を終え、資料片手にぞろぞろと人の群れが押し出て行く。頃合いを見計らってテーブル拭きとゴミ袋を持ち、会議室の掃除へと出向いた。

まだ中に人がいたようでドアノブに手を掛けた時、話し声が漏れて来た。


『…そうか。もしかすると、俺はお前らの上司じゃなくなるかもしれない』

いつもより声のトーンが低いが、この声は前川さんだ。

『どういうことですか?』

この落ち着いた声は彼だった。

『俺の存在が面白くないんだろうな。左遷かクビか…』

『出る杭は打たれるってやつですか? 森田さんのは今回だけじゃないでしょ。他にもあの邪魔され具合は異常ですよ、常軌を逸している』

これは島野さん。


『まあ、若干ニュアンスが違うがな』

『何があったんです、森田さんと』

佐々木さんもいた。

『お前らには関係ないことだ』

『そこまで言っておいて、関係ないって…。日曜日の試験落ちたら課長のせいだ』

日下さんの声だ。


どうやら会議室には5人揃っていたらしく、扉のこちら側で聞き耳立てる私は内心穏やかではなかった。

『それに、何も知らない柏木に手を下させようとするのは間違ってます。書類再現させたのは俺ですけど』

『シュレッダーまではよかったが…。しょうがないな、俺のせいで落ちたと喚かれても癪だからな。…ったく』

朝のミスの話だとすぐにわかった。聞いてはいけないことなんじゃないかと、足が竦みどきまぎしながらもその場を離れられないでいた。

『…森田とは同期でな、今の工藤と日下のようなライバルだった。森田が出向でいない5年の間、いないのをいいことに俺は仕事以外のことであいつを裏切った。怨まれても当然の事をした報いなんだ』

『報いって、…だからってやりすぎだ』

『島野の言う通りやりすぎ、かもしれないが。まだ、才能で恨まれた方がおそらく森田もあそこまでしないだろう。ライバル同士でいれたら楽だったかもな、お互い』

仕事以外…。あんなこと…。怨まれても当然…。


頭の中で解ろうとするが、物事の一部分も理解できない。