タブレットへ視線を戻し、下を向いたまま口を開ける。
「…ここにいたら煙草の匂い、服に付くぞ?」
「大丈夫」
「髪も煙草臭くなる。俺はこれをやっつけるから控え室にいろよ」
まるで、急ぎの仕事でもおっぱじめるかのような口ぶりで、ちゃちなキーボードを叩く。
「でも、…わたし手伝えるよ?」
「いい。出てろ」
そこでおろおろしてるのが、柏木の友人代表でスピーチを任されていて、手伝った経緯があることから、文例は頭に入っている。
あいつらの恥ずかしくて寒い話ならたくさんある。ウケるとは思えないが…。
下を向いた視界の片隅で、ガーネット色のドレスの裾がふらりと揺れた。視線を上げると背中全体で気まずさを訴え、喫煙所を出て行った。
「いいんですかー、放っておいて?」
「平。…怖いのは女同士の会話だとか、あの嫌味な上司連中だけじゃねぇぞ。もっと怖いものがある」
「へえ!日下さんでも怖いものがあるんですか!?」
教えて、教えてと瞳を興味の色に変えた平は、俺を覗き込む。
あいつらが結婚するからって、じゃあ俺らも。だとか。
嗾けられて、じゃあ結婚するか。だとか。
流れ作業のような惰性でするもんじゃない。
こんなことがなければ、タイミングはつかめなかったかもしれないが、全く考えてないわけではない。
俺は目を細め、煙を吸った。
今か今かと何か言うのを待つ平へ、静かに声に出した。
「娘さんをくださいって、向こうの親に挨拶行くとき」
「…うわ。確かに…」
横目で流せば、平は両手で頬を覆い、怖すぎる!怖い状況すぎる!と大袈裟に口を震わせる。
「だから、余計な気まわすな。もう邪魔すんじゃねぇぞ」
「すみませんでした…」
考えてるからこそ、その怖い状況とやらも悪くねぇなと思えんだろ。
煙草を咥えたまま再び視線を落とし、キーを弾くリズムに同調させるかのように、せかせかと唇の隙間から煙を追い出した。
[2016.6.12 End.]
「…ここにいたら煙草の匂い、服に付くぞ?」
「大丈夫」
「髪も煙草臭くなる。俺はこれをやっつけるから控え室にいろよ」
まるで、急ぎの仕事でもおっぱじめるかのような口ぶりで、ちゃちなキーボードを叩く。
「でも、…わたし手伝えるよ?」
「いい。出てろ」
そこでおろおろしてるのが、柏木の友人代表でスピーチを任されていて、手伝った経緯があることから、文例は頭に入っている。
あいつらの恥ずかしくて寒い話ならたくさんある。ウケるとは思えないが…。
下を向いた視界の片隅で、ガーネット色のドレスの裾がふらりと揺れた。視線を上げると背中全体で気まずさを訴え、喫煙所を出て行った。
「いいんですかー、放っておいて?」
「平。…怖いのは女同士の会話だとか、あの嫌味な上司連中だけじゃねぇぞ。もっと怖いものがある」
「へえ!日下さんでも怖いものがあるんですか!?」
教えて、教えてと瞳を興味の色に変えた平は、俺を覗き込む。
あいつらが結婚するからって、じゃあ俺らも。だとか。
嗾けられて、じゃあ結婚するか。だとか。
流れ作業のような惰性でするもんじゃない。
こんなことがなければ、タイミングはつかめなかったかもしれないが、全く考えてないわけではない。
俺は目を細め、煙を吸った。
今か今かと何か言うのを待つ平へ、静かに声に出した。
「娘さんをくださいって、向こうの親に挨拶行くとき」
「…うわ。確かに…」
横目で流せば、平は両手で頬を覆い、怖すぎる!怖い状況すぎる!と大袈裟に口を震わせる。
「だから、余計な気まわすな。もう邪魔すんじゃねぇぞ」
「すみませんでした…」
考えてるからこそ、その怖い状況とやらも悪くねぇなと思えんだろ。
煙草を咥えたまま再び視線を落とし、キーを弾くリズムに同調させるかのように、せかせかと唇の隙間から煙を追い出した。
[2016.6.12 End.]



