優しい胸に抱かれて

感極まったのか、ハンカチで目頭を押さえて。

「どうしよ…」

とか言って、泣きだした。


「…それって、あの赤いドレス?」

「赤じゃなく、ガーネット…」

「ガーネット?赤だろ。カーマインに近い」

「写りはそう見えたかもしれないけど、どっちかといったらワインレッドとかガーネットであって、カーマインとは違う」

「…えんじ色、もしくはあずき色か」

「…そのカラー表現は年寄り臭い」

「はぁ?30なんだから適切じゃねぇか」

「どこが?もう少し言い方があると思う」

ひそひそと繰り広げた些細な口論で涙は止まったらしく、どうせもう若くないよ。と、膨れ顔を見せた。


まだ始まってもいないのに、化粧直しが必要なくらい泣くなっての。と言えば、また頬を膨らませた。

「…もしかして、わざと?」

「違う」

泣きだしてわざと皮肉を言い出したと思ったらしいが、生憎違う。


背後からの送られ続けている、好奇な視線に耐えられなかったのだ。


「日下が女を泣かせてる」

「あの日下が女と喋ってる」

ちらりと振り返って、島野さんと佐々木さんを鋭く一瞥した。白々しく2人はすかさず天井へ視線を預けたものだから、俺は小さく舌打ちし前へ向き直る。


女同士の会話より、たちの悪い上司連中の方が、俺からすればぞっとする。


一瞬映り込んだ斜め後ろで、部長が気味悪く微笑んだのが見えた。


早く始まって、早く終われ。

こんなことを思っているのは、招待された中できっと俺くらいだ。



緊張で固い表情の2人が登場して、汚れの知らない真っ白なドレスを纏う、柏木へ向けた言葉が飛び交う。綺麗、と。

綺麗か綺麗じゃないかと言えば、綺麗なのだろうが、所詮、柏木だから馬子にも衣裳って言葉がしっくり似合う。