優しい胸に抱かれて

これが平の台詞だったら、偏屈言いやがってと責めれるものの。コイツの場合、偏屈でも屁理屈でもなくて、本気で言ってやがるから面倒なことこの上ない。


「大丈夫ですよ。ドアノブはいらないです」


何が大丈夫なのかは聞かない方がいい。コイツとの絡みは怖いって言うより、面倒だ。ある意味怖いと言えるのか…。


「よかったな、30手前で結婚できて…」

「日下さん、結婚相手に望む条件。ステータスでもなければ年収でもなかったです」

話題を変えたのは俺だが、重ねて変えられた挙句に、とんでもない昔の話を引っ張り出してきた。


そんなことを言い出す柏木は、結婚しても仕事は続けると意気込んでいて、みんなが言うには、輝いていて今が一番いい時期、らしい。



俺の、何言ってんだコイツ。という視線を、あろうことか無視して話を続ける。


「じゃあ、何だって聞かれると悩んじゃいますけど。…強いて言うなら、…信頼です。お互い、信じて想っていられるって、幸せですよね?」

「…聞いてねぇし、俺に聞くんじゃねぇよ」

じゃあ、誰に聞けばいいんだ、とでも言いたげな表情を落とした柏木は、あっ!っと声を漏らし、急に笑顔になって。


「お昼ですし、なぽり行きませんか?今日、さゆりちゃんいるんですよ!」

などと言い出した。


俺はそもそも、そのさゆりちゃんとやらには会ったことがない。一度は辞めたはずのなぽりに月に数回、出てこられる日に出てきているらしいが、知りもしないし興味もない。


それにだ。どんな理由で、俺と柏木が昼飯を一緒に食わなきゃいけねぇんだ。


「会ったことないなら尚更です、行きましょう」

「…何、企んでんだよ?」

「えっ、何も…」


いきなり狼狽え始めた柏木に冷たい視線をくれてやると、目を泳がせて落ち着きがなくなった。


「待ち合わせしてて、その…」

「どっちの提案だ?」

「…えっ?あ、あの…」

この様子は柏木ではないようだ。俺の手前、コイツは一応気を遣っているらしい。


なるほど。平が無理って言うのも頷ける。

「やっぱり、…嫌ですか?」