優しい胸に抱かれて

『絶対、無理っ!』

普段、合コンで成果を上げている奴とはいえ、誰でもいいわけではないようだ。


『それこそお持ち帰りしたあと、女同士で何言われてるかわかんねぇだろ』

『それは、二度と会わないかもしれない女の子たちだからですよ。社内とか、彼女の尊敬している先輩が自分の同期とか。彼女の友達が自分の職場にいるとか、怖い状況ですよ』

『気にしなきゃいいんじゃねぇの?それに、嫌だったらはっきり示せよ。はっきりしないから丹野が追っかけてくるんじゃねぇの?』

『…黙ってればいい女なのに。鈍感具合が柏木とは違うんですよ』

『何がだよ?』

『はっきり言っても、それでもいいからって、追っかけてくるんです…』

それに続く言葉を探していると、平は深く煙を吐き出した。憔悴しきった横顔を眺め、俺は何も発することなく煙草を消した。

周囲が気の毒と哀れむほど、意外にも丹野は積極的だったわけだ。


俺からのアドバイスは期待できないと察したのか、お邪魔しました。と、そろっと戻ろうとする平を呼び止め、リスト表とペンを要求する。


[家]と無駄に整った字を線で消し、[ドアノブ]と書いて渡した。


黙って見入っていた平が、怪訝そうにドアノブ?と呟く。

『扉があってもドアノブがなきゃ開かねぇだろ』

『2人でドアノブにぴったり合う扉でも探せってことですか…?日下さんて普段ドライなのに、実はロマンチストですよね?』


今度こそ平は俺に背を向け、重たい扉の向こうへ姿を消した。

うるせぇよ…。と、投げる暇を与えず。



そのあと平が言う、[怖い状況]というやつが頭から抜けず、翌日に控えたプランニングの思案が、行き詰っているというのに集中できずにいた時だ。柏木が現れたのは。


確かにノブがなければ開かないですよね?そう納得しかけたのは一時的だった。


「…でも、引き戸だったらどうするんですか?それにですね、ドアノブの取り付けは日下さんもご存じの通り、形は決まっています。大抵丸です。例え合わなくても、佐々木さんに頼めばすぐ解決しますよ?」

「そうじゃねぇよ…」

「え…?」

俺が投げつけた一言に、何を言われているのかわからないといった風に眉を潜めた。


コイツには、ほとほと呆れる。