優しい胸に抱かれて

すると、動きが停止した俺のカーディガンに、紗希は手を伸ばした。

胸元を掴んだかと思ったら、その真っ直ぐな顔が近付いてきて、瞬きを繰り返す俺の唇にそっと触れた。


その動きはスローだというのに、完璧なまでに不意を突かれた俺は、大きく瞳を見開いて、間抜けにもされるがまま。

閉じられた二重瞼に重ねた長い睫毛を揺らし、目を開けた紗希は、押しつけていた柔らかな唇を離す。


離れた唇が言葉を紡ぐ。

「嘘、絋平の困った顔が見たかったの」

と。

恥ずかしそうに呟くような声を出す。まだ至近距離にある上目遣いは俺の心を煽り、またしても波を打った。


内心は困っていたし、困るというより焦りの方が強い。余裕のない表情をしていたに違いないのに、どう解釈したら困った顔に見えたんだ?

物言えぬようにそのかわいい口を塞いでやろうか。いつも自分が困ってるくせに、柄にもなく俺を困らせたんだから。


…本当にわかってないよ、紗希は。