優しい胸に抱かれて

 丹野さんたちと入れ違いに、今度は一課の宇部くんが私の横に立つ。机の上にいくつかのパース図を並べた。

「柏木さん、ちょっといいっすか? パイクイーンのデザイン見てもらいたいんすよ。工藤さんはオーナーの気持ちとお客さんのことをもっと考えろって、わかんないなら柏木さんに聞いてみろって」

「…ヒヤリングの資料ある?」

「はい。厳しいこと言う割に具体的に教えてくれないんすよ。どうしたらいいかさっぱりで…」


 パイクイーンは2店舗目。オーナーからお店を畳むと聞いて、それなら自分が受け継ぐ。こんなに美味しいのに無くしてしまうのは罪だ。と、今の店長が脱サラならぬ脱OLしてなんとか続けられていて、口コミなどからリピーターが増え2店舗目を出店。

「店長さんとは何回会った?」

「3回っすね」

「障害物多過ぎて出入りの際、お客さんが気を遣ってしまう。厨房から遠いから動きが多くなる。それと、ここの仕切りは来客に気づきにくくて邪魔」

 パース図を指でなぞり、思いついたことを述べる。


「あと、ソファー席やカウンター席があってもいいと思う。1人でふらっと寄りたい人だっている。お店がこんなに広いのに有効に空間を使えていない。極め付け、詰め込み過ぎて何のお店かわからない」

 そう言って、ふと机の引き出しに手を掛ければ、空だと主張するかのように軽ろやかに開いた。同時に、感心したような声がして、空っぽの引き出しを閉めた。

「はぁー、すごいっすね…。鈍い鈍いって貶されている人とは思えないっす」

「はは…。って言っても、その厳しい工藤さんとやらの受け売りだけど」

「そんで、その厳しい上司の大事な人ってのが柏木さんだったんすね。…俺、あの人みたいになれますかね?」

「…鈍い私に指摘されてるようじゃ、無理ってことなんじゃない?」

「あっ…。うわーっ、やられた! そういうことか、まだまだってことっすよね…? 今まで柏木さんのこと馬鹿にしてたんすよね。…何で鈍いって言われてんの、この人?」

 悔しそうにパース図を掻き集めて「遠回しに惚気られた気分っす」と、宇部くんは肩を落とし自席に戻ろうとするところで、私は大きな声を上げた。

「あっ、あとね。もっと、足を運べって言いたかったんだと思う!」


 店長さんに会えば違うアドバイスができたのだろう。来月の下旬オープンか。できたてはもっと美味しいんだろうな。


 行きたい場所が一つ増えて、楽しみも同時に増える。