優しい胸に抱かれて

「…たったの2年、たかが2年。これからの何十年に比べればそんなもんだ、お前の2年なんてものは。これだけは言っておくが…、次、辛気臭い顔見せたら殺すぞ」

「はい。部長、聞いてもいいですか?」

「何だ?」

「みんなが不器用なのは、上司が不器用だからですか?」

「そうかもしれないな。知ったような口利けるのも今のうちだ。二課の事務処理が進んでないどころか、旭川の分が手付かずだぞ。佐々木がやると思ったか? それに、設計図は受け取ったが、内装やインテリア部分の提出が遅いようだな。…何だ? 不満か?」

「…いえ」

 佐々木さんの馬鹿。いや、信じた私が馬鹿だったのだ。佐々木さんが素直に机に向かうわけないのだ。事務処理はとっくに片付いていると思っていた。というより、そもそも頭になかった。


「浅はかなのはそう変わらないか。辛気臭い顔してた分と休んだ分、工藤と仲良く残業でもして取り戻すんだな」

「はい…」

 嬉しいんだか、切ないんだか。にやりと意地の悪い笑みを浮かべた部長を、私は握った拳を背中で隠し、何とも言えない悔しい顔を見せるだけだった。


 席に戻るとみんなの姿はなく、佐々木さんの作業服は消え、日下さんの席は椅子が机とは別な方を向いていて、島野さんはサンダルを脱ぎ捨てていた。


 ガラスプレートへもこもこした羊を仲間入りさせ、賑やかになったディスプレイ台の上が、見入った画面下の視界に映り込む。


「係長、私たちはニットカフェのプランニング行ってきますね!」

 丹野さんと林くんが出掛ける間際、そう声をかけてきたので一緒に行こうか尋ねると、彼女は首を横に振る。

「病み上がりなんですから、係長は残ってください。係長が休んでる間、噂で持ちきりでした」

「噂…?」

 なんだろう、と見上げた私に笑顔を見せた。

 前代未聞の自宅謹慎。揃って休むなんて怪しんでくださいと言っているようなものだ。

「指輪…、素敵ですね! では、行ってきます」

「ありがとう。気を付けて」

 2人の姿から薬指に視線を落とす。何気ない一言だったのだろうけど、くすぐったい。